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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2015/9/30 14:45

佐藤寿人と浅野拓磨 偉大な背中と「笑顔の交代」(♯23)

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9月26日、IAIスタジアム日本平で行われた明治安田生命J1リーグ 2ndステージ第12節。サンフレッチェ広島の佐藤 寿人がJ1通算最多得点記録の金字塔を打ち立てるのではないかと耳目を集めた一戦で、主役を張ったのは浅野 拓磨だった。

抜群のスピードを武器とする21歳のストライカーはこの試合、巧みな駆け引きと沈着さ、そしてコンタクトプレーの強さまで発揮して2つのゴールを記録。森保 一監督も「(浅野が)これまで努力してきたことが結果につながっているのだと思う」と目を細める見事な活躍で、5-1の大勝を呼び込んだ。これで今季通算8得点。もっぱら途中出場で残してきたことを思えば立派な数字と言えるだろう。

今季大きく飛躍を遂げた浅野。秘訣は笑顔にあるという
今季大きく飛躍を遂げた浅野。秘訣は笑顔にあるという

秘訣は「笑顔」なのだという。

「広島は本当にベテラン選手が僕みたいな若手に距離を置かずにいてくれます。ゴールを決めると本当に大喜びしてくれるし、オフ・ザ・ピッチからやりやすいようにしてくれているのがわかります。たとえば(2ndステージ 第9節・名古屋グランパス戦の)PKを蹴る時も、水本 裕貴さんが走ってきて、『笑え!』と言ってくれて。自分ではわからないんですけれど、硬い表情していたんでしょうね。その一言だけで余裕が持てました」

浅野がピッチに立つ時はしばしば広島の偉大なエースとの交代となる。清水エスパルス戦でもそれは同じだったのだが、やはりそこには「笑顔」が待っているのだという。「寿人さんも笑顔で交代してくれるんです。『頼むぞ』と言ってくれて、だから寿人さんの分も、いや寿人さん以上のモノを出さないといけないという気持ちになります」と言う。「寿人さんにはずっと背中を見せてもらっている」という憧れのヒーローから、交代の時に背中を押されるのだから、力にならないはずもない。

最多得点記録に迫る広島のエース佐藤も浅野の成長を感じ取っている
最多得点記録に迫る広島のエース佐藤も浅野の成長を感じ取っている

一方、「背中」を見せてきた佐藤も「(浅野には)成長を感じるし、本当に頼もしくなってきた」と率直に語る。「結果として勝つことが一番なので」と言いつつ、「若い時とは違って90分間出る状況ではなくなっている中で勝つために何ができるのかを考えている」とも言う。もちろん、「自分の中で(記録達成のかかった)次の1点を取りたいという気持ちはありますよ」と笑いつつ、「ただ、逆に言うと記録で注目していただけているからそう思うだけなんですよ」と、やはり笑顔で言い切った。

もっとも、「でも今日はチャンス自体なかったよね」と水を向けると、生き生きとクロスへの合わせ方、引き出し方についてプレー面の反省点を列挙しつつ、チャンスが生まれなかった理由をまくしたててくれるあたり、佐藤からストライカーのメンタリティーが薄れたわけでもない。この選手の記録達成については、完全に時間の問題でしかないということも確信できた。「チャンスがあれば取れると思っています。勝利につながるゴールを決めますよ」と連ねた言葉は、積み上げてきた記録があるだけに抜群の説得力があった。

憧れのヒーローから交代時に背中を押されるのだから、力にならないはずもない
憧れのヒーローから交代時に背中を押されるのだから、力にならないはずもない

浅野は言う。「目指すべき人だと思うし、いつかああいう選手になりたいとも思います」と。同時に「自分が寿人さんのポジションを奪いたいと思います」とも言い切った。抜群の敬意はあれど、そこに遠慮があるわけでは決してない。積み上げる数字と追い掛ける情熱が絡み合い、強さに昇華していく不思議な感覚。「広島はなぜこうも安定して強いのか?」という問いへの答えは一朝一夕に出すべきものではないが、その一端は見えた気がした。