勢い余って退席処分――。ガンバ大阪を率いる長谷川 健太監督のことです。昨夜のAFC アジアチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝 第2戦。ホームのG大阪が韓国チャンプの全北現代に3-2のスコアで競り勝ち、4強に駒を進めました。後半ロスタイムの決勝ゴールに沸き、思わずピッチに足を踏み入れての退席処分。それも「ご愛嬌」と軽々しく口にはできませんが……少なくとも、この一戦に賭ける思いの深さは十分に見て取れたはずです。
健太イズムがスパイクを履いたようなチーム――。昨夜のG大阪は、そう呼べるかもしれません。指揮官の口グセである『ファイト』『アグレッシブ』『ハードワーク』がテンコ盛りでした。それを、ボール扱いの達者なテクニシャンたちが演じているという構図。就任以来、長谷川監督が選手たちに強く求めてきたものですね。一夜漬けとはワケが違います。ここ一番や苦境に陥った時ほど、あらわになりますからね、本性(日頃の行ない)が。継続は力なり、の良き見本でしょうか。
天下(アジア)取りに、長谷川監督は「本気」でしょう。いや、厳密に言えば、その先を見据えていると言ってもいいかもしれません。日本サッカーが世界で勝つには、どうすべきか――。しつこいくらいファイトやハードワークを説く『健太イズム』の根本が、ここにあると思うからです。事実、長谷川監督は、そうした野心を隠しません。印象深いのは、この夏のスルガ銀行チャンピオンシップで南米王者のリバープレート(アルゼンチン)に敗れた後のコメントです。
「本当に悔しい。リーベルは世界的なクラブですが、そういうクラブにJリーグのチームが勝てるようになっていかないと(日本)代表が世界で勝つということにつながっていかないと思う。いい試合(善戦)で終わると、こういうコメントをするのが悔しい」
なぜ、代表クラスの選手たちにも、そこまでハードワークを求めるのか。その理由がお分かりいただけるかもしれません。健太イズムは「J1で効率よく勝つための方法」に基づくものではないわけです。思えば、Jリーグ史上最強と称えられる黄金期のジュビロ磐田もそうでした。当時の鈴木 政一監督は世界クラブ選手権でレアル・マドリード(スペイン)を倒す、というニンジンをぶらさげて、タレント群にハードワークさせたわけです。苛烈なプレッシング戦術ですね。
慣れない選手たちが不満をこぼす中、当時の柳下 正明コーチ(現新潟監督)が「やる前から、できないと言うな!」と一喝。選手たちは渋々、それに従い、ハードな訓練の末、あの最強チームが生まれたわけです。当時の中心だった名波 浩監督は「Jで勝つだけなら、あそこまでしなくても、勝てたかもしれない」と話しています。指揮官がいったい「どこ」を見据えているか――。それによって、チームの行く末は大きく変わる、という好例でしょうか。
なぜ、宇佐美 貴史に、そこまで守備のタスクを求めるのか。その理由も高み(世界最高峰)からの逆算でしょう。宇佐美選手が再び欧州のトップレベルに活躍の場を移した場合、そこを疎かにしていたら苦労する、という見定めがあるからですね。ファイト、アグレッシブ、ハードワークを叩き込まれた倉田 秋、藤春 廣輝、米倉 恒貴といった選手たちが次々と代表に招集されたのも当然でしょうか。それも、野心を抱く指揮官が彼らの潜在能力を引き出した結果と言えるかもしれません。
苦役ではなく、歓喜を呼び込む導火線――。昨夜のタフな勝利は、G大阪の面々に「よく走り、よく闘い、よく働く」ことの価値を再認識させる契機となれば、いいですね。理屈だけでハードワークさせるのは難しいでしょう。情に訴える力も必要かと。先週末の鹿島アントラーズ戦で久々に得点を決めた宇佐美選手が、真っ先に長谷川監督の下へ駆け寄ったシーンが暗示しているかもしれません。タレントを動かすロジックとパッション。日本の指導者をなめるな、と言いたいですね。誰に? いや、別に……。