今日の試合速報

スーパーカップ2025
スーパーカップ2025

コラム

J2番記者リレーコラム オフ・ザ・ピッチのネタ帳

2015/9/7 15:00

大宮の快進撃を支えるベテランの力(♯2)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

8月に入ってややペースが落ち気味とは言うものの、残り12試合で2位ジュビロ磐田と勝点14、3位セレッソ大阪には勝点17点差をつけて首位を独走する大宮アルディージャ。今年掲げた「J2優勝でのJ1昇格」という目標に向かって、順調に歩みを進めている。

渋谷 洋樹監督が戦力を見極めた上でチーム作りを推し進め、リーグ最少失点の強固な守備を作り上げた。攻撃では、その中心に据えられた家長 昭博が、泉澤 仁やムルジャ、横谷 繁らのアタッカー陣を巧みに操ると同時に、自身もキャリアハイの活躍を見せている。

圧倒的なパフォーマンスで大宮の攻撃を牽引する家長
圧倒的なパフォーマンスで大宮の攻撃を牽引する家長

その中で鈍く輝きを放つのが、チーム最年長のベテラン、播戸 竜二だ。今シーズン初先発となった明治安田生命J2リーグ 第12節のギラヴァンツ北九州戦で移籍後初ゴールを決めると、第24節のアビスパ福岡戦ではJリーグ日本人最年長となるハットトリックを記録した。初ゴールを決めた北九州戦以降、播戸が先発する布陣は不動となり、大宮はチームとしての戦い方を確立。播戸が前線からしっかりとボール追い続け、相手が疲弊したところでバトンタッチしたムルジャが得点を決めるというパターンが、一時期の大宮の勝利の方程式にもなっていた。5得点はチーム内で5番手だが、出場時間当たりの得点率はチームトップを誇っている。

正直、開幕前の時点でこれだけの活躍を予想した人がどれだけいただろうか。過去にJリーグで得点を量産し、日の丸を胸に戦ったという実績は誰もが認めるところではあるものの、直近2シーズンは11試合出場で無得点に終わっている。今年の新体制発表会見の席上で自ら「最年長なので、チームのことを考えて社長や強化部長と話しをすることもある」と語ったように、持ち前の明るいキャラクターでチームを盛り上げ、まとめ上げてくれれば、あとはポイントポイントで点を取ってくれればいい――恥ずかしながら、筆者もそう思っていたうちの一人である。先見のなさを恥じ入るばかりだ。

日本人最年長ハットトリックを達成するなど、播戸は今なお輝きを放ち続けている
日本人最年長ハットトリックを達成するなど、播戸は今なお輝きを放ち続けている

相手の視野から消え、再び前線に潜り込む。試合中はそうした動きを何度でも繰り返し続ける。もちろん、ただ待っているだけではない。自分がいかに点を取るか、周囲にもアピールし続ける。右利きの左サイドバックである和田 拓也に対し、「左からの右足のクロスは、ゴールに向かって行くので合わせにくい。なるべく左足で上げてほしい」と要求し続けていたと言い、北九州戦で見事にそれを結実させた。福岡戦での2点目の場面では、「あそこにパスを出せば俺が決めてやるからって、(泉澤)仁には今年に入ってからずーっと言い続けてきた」と笑い、後輩を称えた。

簡単なことではない。だが、そうした姿勢は、確実にチーム全体へと波及しようとしている。清水 慎太郎は「ボールがゴール前に出て来なくても我慢し続けられるというか、我慢強く何回も入っていくことができる」ところを見習うべき点として挙げる。富山 貴光は「試合になれば、いつもどおり好きなようにやれ、という感じでやりやすくしてくれる、そういうところの気遣いはすごい」と先輩への感謝の念を表した。

塩田(左)らベテランの存在が若手の成長を促している
塩田(左)らベテランの存在が若手の成長を促している

播戸自身も「自分が経験してきたことだったり、ちょっとしたアドバイスで若い選手たちが成長してくれればうれしい。もちろん自分のことが一番ですけど、プラスアルファ、若い選手たちにプレーの面でも精神的な面でも何かプラスになれれば、というのはいつも思います」と託された役割を自覚している。たとえ言葉がなかったとしても、「いいパフォーマンスができるように、試合から逆算して取り組んでいる」(富山)という日々の姿勢を見て、若手は確実に成長しているはずだ。

ベンチに座りながら出場選手にアドバイスを送り続ける塩田 仁史、出場機会はわずかながらも要所で試合を締める片岡 洋介――。播戸を含めた、こうしたベテランの存在が今年の大宮の快進撃を支えているのは間違いない。家長や泉澤といった派手な選手に目が行きがちではあるが、彼らの隠れた活躍にも、しっかりと視線を送り続けていきたい。

文:土地 将靖
埼玉県浦和出身。93年、試合速報テレホンサービス「J's Goal」のレポーター兼ライターとして業界入り。01年よりフリーに転身、大宮に密着し専門誌へ寄稿する他、テレビ・ラジオでのコメンテーターとして活動中。