最近、やたらと耳にするフランス語があります。デュエルですね。直訳では「決闘」という意味のようですが、日本サッカー界では「球際の激しさ」という解釈が一般的でしょうか。日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督の口グセ。何でも、この「デュエル」が日本サッカーの弱みの一つだと。もっとガツガツ行けよ――ってことでしょうか。乱暴に言えば。球の奪い合いで「どうぞ、どうぞ」と、やっている場合かと。実際、そんな風に見えたりすることもあるわけですが……。
安心してください。いますよ。Jリーグにも「デュエル上等」みたいな集団が。その代表格と言ってもいいのが、アルビレックス新潟ですね。基本、球際の争いでは一歩も引きません。しかも、タフとラフの境界線をわきまえている感じがいいですね。まるで匠の技みたいに次々とボールをかすめ取る強奪職人レオ・シルバ選手を筆頭に、球際の争いを恐れていません。ぶつかり合いで骨のきしむ音が聞こえてくるような……そんなデュエル達者の面々が、新潟にはそろっています。
デュエルに強いと何が可能か。一つは前線からのプレッシングでしょう。J1リーグでは球が相手に渡ると、各々がプレスバックしながら自陣に戻り、守備ブロック(8人から9人の『人壁』)をつくるクラブが少なくありません。無理に球を奪いに行っても「どうせ取れない」と諦めてしまったかのように……。俗に言う「ミス待ちディフェンス」ですね。球を持つ側は、そこまで厳しい圧力にさらされず、楽にパスを回せるシーンをよく見かけます。ところが、新潟は決して待ちません。
いやいや、行けば取れるでしょ――。例の「ミス待ち」とは発想が真逆。前線から、高い位置からガンガン球を奪いに行くわけです。言わば、ハンティング・フットボール。湘南ベルマーレの曺 貴裁監督が「僕らの守備は『ゴールを守る』のではなく、自分たちから『球を奪いに行く』もの」と話していましたが、新潟のスタンスも同じでしょう。極めてアグレッシブ。本来、優位に立つはずの球の持ち手が、猟犬の群れに追い詰められる一匹のウサギみたいに見えてくるから面白いですね。
相手の「ミス待ちディフェンス」に慣れたポゼッション型のチームほど、猟犬の群れに出くわした時の衝撃、落差は大きいでしょう。昨夜(2日)の浦和レッズがそうかもしれません。ヤマザキナビスコカップ 準々決勝 第1戦です。GKにまで激しく寄せてくる新潟のハイプレスに悪戦苦闘。思うようにパスが回らないばかりか、想定外のエリアで球を失い、新潟の逆襲をまともに浴びることになりました。終わって見れば5-0。無休のプレッシングを支える新潟の苛烈なデュエルは見事なものでした。
だからこそ余計に歯がゆいかもしれませんね。今季のリーグ戦での戦いぶり、いや「結果」「戦績」の方が。無論、妥協や手抜きがあるわけではありません。新潟と戦うJクラブは常に疲労困憊でしょう。解説者の方々をはじめ、専門家筋からも新潟のアグレッシブな戦いぶりを賞賛する声を数多く耳にします。それがなぜ、残留争いに巻き込まれているのか。決め手不足。もうこの五文字以外に適当な言葉が見つかりません。決めるべきところで、決めていれば……。
そうです。いま頃は残留争いどころか、上位に食い込んでいても不思議はないでしょう。決め手に苦しんできた新潟が一夜で5ゴール。リーグ戦に取っておけば……などと言ってはいけませんよ。あのゴールラッシュが「覚醒」の引き金と期待しています。指宿 洋選手と山崎 亮平選手の2スピアヘッドに加え、ラファエル シルバ選手も快気祝いの一発。持ち前のデュエルに決め手が整えば、自ずと勝点はついてくるはずです。ピッチ上で決して「安住の地」を与えない新潟のようなチームこそ、ポゼッション志向の強いJリーグに摩擦、競争、向上をもたらす大事な存在でしょう。