9月3日と8日に行われる2018FIFAワールドカップロシア アジア2次予選の日本代表メンバーが発表された。代表チームは3日に埼玉スタジアム2002でカンボジア代表と、8日に中立地のイランでアフガニスタン代表と対戦する。6月にホームのシンガポール戦でスコアレスドローに終わっていたこともあり、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は得点力アップの方法について思索を巡らせている様子だった。
会見の壇上、指揮官はカンボジアが5バックの守備的布陣で臨んでくると予想。守りを固めてくるであろうカンボジア、アフガニスタンとの戦いを勝ち抜くために、ミドルシュートとPK獲得をポイントに挙げていた。積極的にゴールを脅かすだけでなく、遠目から狙うことで引いて守る相手をボールホルダーの位置まで釣り出し、スペースを生み出すことを考えたのだろう。
確かにシンガポール戦ではミドル~ロングレンジのシュートが少なく、攻撃が単調になり相手にとっては守りやすい状況を生み出してしまった。また、監督自身が現役時代にFWとしてプレーしていた経験を生かし、ペナルティエリア内へ攻め込んでの攻撃に迫力を出しつつ、PKのもらい方を伝授したい意向も示している。いずれも今までのハリル・ジャパンになかったもので、今回の合宿で選手たちに強く求めていくことも明かしていた。
個人的にはもうひとつ、カンボジア戦のカギを握ると考えていることがある。それがGK西川 周作(浦和レッズ)の高速フィードだ。
GK陣は所属クラブなしの状態が続いている川島 永嗣がメンバーから外れ、西川、東口 順昭(ガンバ大阪)、六反 勇治(ベガルタ仙台)というJクラブ所属の3選手が選出された。ハイボールに無類の強さを見せる東口、安定したセービングに定評のある六反とのポジション争いとなるが、今回の試合では同じメンバーで臨んだEAFF東アジアカップ2015で2試合に出場した西川が起用されるのではないかと見ている。もし正確なキックを持つ彼が出場機会を得れば、自慢の左足が威力を発揮する絶好の機会となるはずだ。
8月22日、埼玉スタジアムで明治安田生命J1リーグ 2ndステージ 第8節の浦和対仙台戦を取材した時のことだ。
序盤、敵地に乗り込んできた仙台が5バックで守備を固め、スペースを消された浦和はパスの出しどころを失っていた。だが9分、西川が相手CKをキャッチすると、次の瞬間に彼の左足から糸を引くような低い弾道のフィードが右サイドの梅崎 司へと放たれ、これが先制ゴールの呼び水となった。
少し視点を変えてこのゴールを振り返ってみよう。
前線でカウンターのチャンスを窺っていた梅崎は、西川がキャッチするや否や、フィードに対して反応。そこへピンポイントのキックが届いた。梅崎と相手選手が競り合ってこぼれたボールをを拾った柏木 陽介がドリブルでどんどん持ち上がり、ペナルティエリア付近で倒されて直接FKのチャンスを獲得。これを柏木自ら得意の左足で鮮やかに決めて一気に先制点を奪った。
大分トリニータU-18で育った西川が当時、公式戦で直接FKを何本も決めていた話は有名な話だ。これまでGKとしても正確なキックで幾度となくビッグチャンスをもたらしてきたが、今回のフィードはチームが難しい状況に置かれる中で彼が輝いた典型的な場面だったように思う。やはり彼の左足は他の選手にはないスペシャルなもの。試合後に話を聞きに行っても、当の本人は「まあ、そこはいつも狙っていますから」と普段と変わらぬ笑顔を浮かべていたが、「そこが僕の持ち味でもあるんで」と力強く続けたところに左足キックへの確固たる自信を感じた。
このキックがカンボジア戦で発揮されたらどうだろうか。日本代表ではなかなか出場機会を得られなかった西川だが、自分の持ち味はしっかり理解しており、彼の狙いは終始一貫している。素早く攻守を切り替え、前線へ走り込む選手へピンポイントのボールが届く。そうすれば――。
引いて守る相手からゴールを陥れる手段はいくつもある。ハリルホジッチ監督が語ったように積極的にミドルシュートを狙ったり、PKを誘発するようなプレーも効果的だろう。浦和が仙台戦で見せたように角度をつけたダイレクトパスも有効だ。そういったチャンスを導き出すバックグラウンドに、ぜひ西川の低弾道高速フィードを加えておきたい。通常は強者相手のカウンター時に武器となるが、相手がセットプレーでゴールを狙いに来たところでも存在感を発揮してくれるのではないかと考えている。
これまで日本代表として17試合に出場してきた西川だが、実は埼玉スタジアムのピッチに立ったのはわずかに1回のみ。それも川島の負傷を受けての途中出場だった(2010年10月8日のアルゼンチン代表戦=アルベルト・ザッケローニ監督の就任初戦)。しかも当時はサンフレッチェ広島所属だったため、今回は初めて“ホーム”のピッチに立つチャンスとなる。慣れ親しんだ景色の中で、ピッチ内の距離感は手に取るように分かるはず。これも彼にとっての大きなメリットだ。
一瞬にしてビッグチャンスをもたらす電光石火の低空フィード。西川がボールをキャッチした瞬間から、相手ゴールを陥れるストーリーは始まっている。