プランは大切だが、そのとおりになることの方がはるかに少ない。人生と一緒で……。
事あるごとに思い出すんです、イビチャ オシムさんの言葉を。最後の一言が決定力抜群です。もう、思い当たることだらけ。オシムさんは「だからこそ、人生は面白い」と語りつつも、最後にこう締めくくりました。プランどおりに物事が運ばない時に、どう修正するか。その力が最も問われている――と。あらかじめ計画(狙い)が頓挫するケースを想定(覚悟)し、リスクを最小限に抑える、あるいは事態を好転させる備えをしておく。それが肝要ということでしょうか。
日本人プロ第一号の奥寺 康彦さんから興味深い話を教えてもらったことがあります。ドイツ・ブンデスリーガのクラブにおけるシュート練習について。奥寺さんによれば「エリア内では守備側も必死だから、完璧な態勢でシュートを打つのは難しい。ミスなく打てれば最高だが、仮にミスをしてもそこから何とかフィニッシュまで持っていく。その力を養うことが重要だった」と。球を弾ませても、置き所が悪くても、体勢が崩れても、シュートを枠に収め、ネットを揺らす力を磨くわけです。
失敗しても、うまく立ち回って、事態を丸く収める。それが「真の強者」と言えるのかもしれません。そう考えると、先週末の鹿島アントラーズは見事でした。不用意なミスからベガルタ仙台に先制され、さらに追加点を許し、0-2のビハインドを追う苦しい展開。当初のプランが音を立てて崩れたところから、鮮やかに立て直し、逆転勝ちを収めました。転んでも、ただでは起きない。鹿島伝統の強さがよみがえりつつあるのでしょうか。
第一にベンチの決断が素晴らしかったですね。35分に早々と中村 充孝選手に見切りをつけ、カイオ選手を投入。さらにダヴィ選手を前半でベンチに下げ、金崎 夢生選手をピッチへ送りました。後半は一方的に仙台を押し込み、シュートの雨あられ。最終的には仙台の実に5倍(25本)のシュート数を放ち、青息吐息の相手をノックアウトしました。残り10分に投入された土居 聖真選手が同点、勝ち越しの2ゴールをマーク。石井 正忠監督の采配ズバリ――いや、修正ズバリですね。
トニーニョ セレーゾ前監督時代は不動のトップ下だった土居選手ですが、この日は「先発落ち」という苦い立場。石井監督は「練習で『聖真』らしさが出ていないと感じた」と、その真意を明かしています。そして、土居選手をピッチへ送る際に「周りとのコンビネーションを使いながら、どんどんゴールに向かって行こう」と伝えると、土居選手もそのとおりの働きを演じて、2ゴールを奪ったわけです。もう「出来すぎ」というくらいのストーリーでしょうか。
そして、名誉挽回の選手がもう一人。右サイドバックの西 大伍選手ですね。本人いわく「今日は2失点に絡んでしまった」と。そこから奮起しての2アシスト。まず、42分にピンポイントのクロスから山本 修斗選手のゴールを引き出すと、82分にはその山本選手のサイドチェンジをジャンプヘッドでていねいに折り返し、土居選手の同点ヘッドを呼び込みました。土居選手の派手な活躍の陰に隠れた格好ですが、両サイドバックが2得点に絡むあたりが、いかにも鹿島らしい気もします。
強い鹿島に、名ラテラウあり――。老婆心ながら「ラテラウ」とはポルトガル語でサイドバックの意味ですね。黄金期の鹿島には「相馬 直樹&名良橋 晃」「新井場 徹&内田 篤人」という優れたラテラウが躍動していました。この日の山本&西のペアが演じたダイナミックな揺さぶりは引いた相手を崩すお手本ですね。この、ピッチの「横幅」をフルに使う攻め筋に目の慣れた相手守備陣は、細かいパス交換から密集を破る中央突破(3点目)についていけませんでした。
石井監督の就任後、破竹の4連勝。老かいな試合運びでサンフレッチェ広島の連勝を止め、この日は2点のビハインドをひっくり返す力強さで、首位に躍り出ました。ミスに動じず、プラスへ持っていく立ち回りの妙は鹿島のDNAそのもの。この先、どこまで伝統のカラー(鹿島色)を強めていくのか楽しみですね。思えば、1stステージで勝ち損ねても、2ndステージで巻き返し、その勢いを駆ってチャンピオンシップを制するのも鹿島の伝統――。可能性は大アリかと。