いよいよスタートする明治安田生命J1リーグ2ndステージ。チャンピオンシップ進出や残留争いなど、年間順位を視野に入れながら戦うことになるが、ステージウィナーを巡る戦いで注目しているのが、鹿島アントラーズと川崎フロンターレの2クラブだ。1stステージはどちらも優勝候補の一角に挙げられながら、ともに安定感を欠いて真の上位争いに加わることができなかった。この中断期間でどう立て直すかが肝になると考えていたが、両チームともにメンタル面で大きなきっかけを得たのではないかと見ている。
鹿島は7月5日に『ENCORE supported by JIM BEAM 中田浩二 柳沢敦 新井場徹 合同引退試合』として、昨シーズン限りで現役を退いた3選手のフェアウェルマッチを開催。日本サッカー界を彩った名選手を迎え、鹿島の歴史を作り上げてきたレジェンドたちが一堂に会した。
1993年のJリーグ開幕から国内最多となる16冠を獲得し、“常勝軍団”としての矜持を胸に戦い続けてきた鹿島。だが、近年は2012年にヤマザキナビスコカップを制したのを最後にタイトルから遠ざかり、リーグ戦では5シーズンにわたって頂点に立てていない状態が続いている。
今回、2007から2009シーズンにリーグ3連覇を達成した当時の主力だった中田と新井場、90年代後半から2000年代前半にエースとして活躍した柳沢がピッチを去ったことも一つの象徴的な出来事だったように思う。
今回のようにOB選手がそろうと、なかなか勝ち切れない最近のチーム状況に話題が集まるのが常。やはり今回もロッカールームで「頑張ってほしい」という声が上がったようで、中田と同期加入で現役選手を代表して出場していた小笠原はレジェンドたちとの邂逅で“常勝軍団としての誇り”に思いを新たにしたという。
「改めてすごい3選手が引退してしまうんだと思った。本当はどこかに『まだプレーしたい』という気持ちがあったと思うし、その思いを背負うというか、常勝軍団として勝っていかなければ彼らに失礼。これだけの選手が集まってくれたけど、今の成績では申し訳なくて顔向けできない。カズさん(三浦 知良/横浜FC)やゴンさん(中山 雅史)もそうだけど、集まってすぐにこれだけの試合ができるのは、サッカーを知っているからだし、これを単なる引退試合にしてはいけない。学ぶものは多かったと思うし、数々のタイトル を獲得してきたOBが残してくれたものを自分たちがピッチ上で見せなければいけない。それが引退する3人とOBの人たちへの恩返しだと思う」
この小笠原の言葉に呼応するように、新井場も「鹿島は常にタイトルを目指すべきチーム。常に優勝を意識してやってもらいたい」と話していた。センターバックとして一時代を築いた秋田豊は、この試合で顔を合わせた現役選手たちへ積極的に声を掛けたという。
ジーコ、ジョルジーニョから日本人選手へ脈々と受け継がれてきた勝者のメンタリティ。憎らしいほどの勝負強さが鹿島の持ち味だった。そして今、小笠原満男らベテランが健在ながら、メンバー編成が大幅に入れ替わって若手が経験を積み、チームはまさに新時代へ突入しつつある。
以前に2ステージ制を採用していた時は2ndステージで頂点に立った勢いでチャンピオンシップも制すのが鹿島らしさでもあった。そう考えると、気持ちを引き締め直すきっかけとなった中断期間の引退試合、そして再び始まった2ステージ制が彼らの追い風となるかもしれない。
もう一つの注目クラブに挙げた川崎Fは、7月7日のプレシーズンマッチでドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントに0-6で大敗。内容、スコアとも想定外の大差で敗れて精神的ショックを引きずることが心配されたが、記者会見に臨んだ風間 八宏監督は笑顔を浮かべ、ミックスゾーンに出てきた選手たちの多くからはポジティブなコメントが目立った。
個人戦術をベースに、ピッチ内での即時判断を求めて攻撃サッカーの構築を目指している風間監督は、「今まで言葉で通じなかった部分を見せてもらった。開幕前にこういう素晴らしいチームと対戦できたことで、選手たちにとっても我々が目指すものが明確になるはず。ものすごく大きなプラスになる」と最高のお手本を見せられたことを喜んでいるようだった。
これまで日本代表として世界と伍してきたキャプテンの中村 憲剛も「正直、世界トップクラスっはこういうことなんだな」と衝撃を隠さなかったがが、その一方で「彼らは自分たちが突き詰めてきたトラップやキックで先をいっていた。しっかり強いボールが蹴れる、それを止める。それだけでそんなに動かなくてもしっかり相手を崩せる。しっかり止められるから周りもいいタイミングで動き出せるし、本当にムダがない。正直、Jリーグでは味わえないような体験をしたけれど、自分たちが突き詰めなければならないのは、あのレベルだと思った」と風間スタイルの先を見据えていた。
見ている側にとっては衝撃の敗戦だったが、先に書いたとおり選手たちからはポジティブな姿勢を感じ取ることができた。小林悠はこの試合がチームにとってのターニングポイントになると話す。
「6点差をつけられて何も感じない人はいない。全員がもっと練習からやらなければダメだと感じたはずだし、試合後のロッカールームでもみんなが『もっと練習から頑張ろう』と話していた。風間さんも『あれだよ』と言っていた。個人としてもチームとしてもいい刺激になったし、この試合がフロンターレがもっと強くなるきっかけになると思う」
まさに「百聞は一見にしかず」ということだろう。ドルトムントが体現してくれたのは、ボールを奪ってから鋭くゴールを狙う速攻、ポゼッションからのアングルを付けたダイレクトパスでリズムを作るアタック、奪われた直後に激しくプレスを仕掛ける“ゲーゲンプレス”、二手三手先を見たポジショニングと動き出し、それを支える鋭いパスと正確なトラップ。風間監督が強く要求する個人戦術で、“ドイツの雄”は川崎Fのはるか先を行っていた。小林は「これで練習からピリピリした雰囲気が生まれるはず」とチームの変わり身に期待を込めた。
Jリーグ史上に類を見ない攻撃サッカーを掲げてリーグの頂点を目指す風間フロンターレ。この試合が選手たちに何をもたらせるのかが楽しみで仕方がない。
もちろん両チームとも即座に結果が出るものではないかもしれない。だが、選手たちは「この試合があったからこそ」と言える日が来るように前へ進んでいく。見ている側としても、どちらも胸に留めておくべき試合だったように感じる。捲土重来を期す彼らが2ndステージで見せてくれるであろう変化と進化を、そして今後の行く末を、しっかりと見届けたいと思う。