ガンガン稼ぎ、ガンガン使う――。
曺(貴裁)政権のスローガンでしょうか。湘南ベルマーレのことです。公約はデフレ脱却! 景気のいいチームをお約束いたしますと。そして『キジェノミクス』を支える三本の矢が(1)走力(2)奪取(3)速攻。すでに一本目の矢の効果は数字にも表れています。今季のJ1リーグ全18チームの中で、1試合平均の走行距離は1位、スプリント回数は2位(14節終了時点)。J2からの昇格1年目ですが、走力(運動量)ではどのクラブにも負けていません。
そして、ガンガン稼ぐ第二の矢とガンガン使う第三の矢と続くわけですが……その前にデフレについて話をしましょう。サッカーを経済の仕組みで考えると、ボール(お金)を使ってゴール(モノ)を買うゲームですね。ボールとお金はイコール。これが手元(足元)になければ何も始まりません。ただし「ボールがすべて」になると話は変わってきます。肝心のゴール(モノ)よりボール(お金)の価値が高いデフレになると、シュート(消費)が冷え込み、凡戦(不況)みたいな。
近年のブームは「貯蓄」のススメでしょうか。ボールを所有するポゼッションのことですね。これが過剰に「失うリスク」を避けると、デフレ一直線。逆に早い者勝ち(カウンター)をあおりすぎると、安物買い(枠外シュート)や減耗(ボールロスト)が増えて、大きな消費につながりにくいでしょう。良し悪しではなく、ボールの運用レベルの問題ですね。しかし、デフレの原因はそれだけでしょうか? いや、ほかにも大事なことがある――と、曺政権は睨んだわけです。
何が重要か。安定した所得、ボール奪取です。我々のスタイルはゴールを守るのではなく、ボールを奪いにいく――曺政権の主張は単純明快。この「守る」と「奪う」は正反対の立場でしょう。前者は失点しないことが最優先ですから、必ずしも安定した所得(奪取)にはつながりません。所得が少なければ、消費をためらい、デフレに陥りやすいでね。そこで曺政権は欲しいモノ(ゴール)をたくさん買える環境づくりとして、第二の矢を重視するわけです。ガンガン稼ごうと。
第一の矢に加え、チーム全体をコンパクトな状態に保ちながら、攻守の転換(トランジション)を急ぎ、圧力(プレッシング)を強め、奪取の効率化を進めてきました。ボールの価値は「稼ぐ場所」によって違い、相手のゴールに近づくほど価値が大きく、それに比例して、奪取の難易度も上がっていくのが一般的です。曺政権のターゲットはもちろん、難易度は高いが、価値の大きいボール。できるだけ自分たちのゴールの遠い場所から、アグレッシブにボールを奪いに行くわけです。
そして、第三の矢でようやく(ボールを)どう使うか、という運用の話になります。スローガンはガンガン使う――つまり、速攻ですね。貯蓄は二の次。グズグズしていると、ゴール前のシャッターが下りて閉店(守備ブロック)ですから、その前に使いましょうと。速いだけじゃなく、人数をかけた「量」の供給も十分です。あとは、いかに効率よくゴールを買えるか。技術やアイディアなど運用の「質」ですね。そこがキジェノミクスの成長戦略を左右するカギでしょうか。
現在は勝点19の7位。5勝4分5敗ですが、直近5試合は負けなし。4試合連続の無失点中です。先週末はサンフレッチェ広島と互角以上の攻防を展開。例の三本の矢が広島を大いに苦しめていました。特に「奪取と速攻」の相互作用が抜群。ボールを失っても、奪い返す力があるから、人数をかけた大胆な攻めを繰り返せるわけです。ガンガン稼げるから、ガンガン使える。リスクを恐れない湘南のキジェノミクス――この調子なら「爆買い」(ゴールラッシュ)へ一直線……かも(?)