ウイークデーは基本的に東京にあるJリーグのオフィスに出勤する 。クラブの代表者が集まり、Jリーグの全体課題を議論する「実行委員会」や重要事項を決議する「理事会」に出席するほか、パートナー訪問やメディア対応、各種の意見交換などに時間を使っている。また、金曜から週末にかけては全国にあるクラブハウス、練習場を訪問したり行政やスタジアムを訪ねて現場から多くを学んでいる。
この週末の私の行動がJリーグスタッフやクラブ関係者をずいぶんと困らせているようだ。予定に無い思いつきの行動やとっさの単独行動が多いからだ。
4月12日(土)は、広島地区のメディア関係者を招いて懇談会を開いた。懇談会は15時に無事終了し、その後の視察予定のサンフレッチェのゲームは19:00だった。1時間前にスタジアム入りするにしても3時間ほど時間に余裕がある。「ならば」と、当日になって急きょ安芸高田市に行くことにした。安芸高田市にはサンフレッチェの練習場やクラブハウスがあるが、広島市内から車で1時間程かかる。公共交通機関で行くことが難しい状況であったが、私は即座にスタッフに対してレンタカーを借りることを指示し現地に向かった。(後に、他の幹部から「事故でもあったら困る。遠くてもタクシーでお願いしたい。」と叱られたのだが)
閑静な山あいにある「吉田サッカー公園」がサンフレッチェの練習場。もちろん、トップチーム選手、スタッフは全員がスタジアム入りしているので、閑散としていたのだが、練習場を管理する地域振興事業団の皆さんが急な訪問にもかかわらず快く応対してくれた。
この緑が染み渡るようなグラウンドでは、毎年地域の子供達を集めた「ふれあいサッカーフェスティバル」が開催されるという。今年で21回目を迎えるこのイベントはまさにJリーグの歴史と重なる。ユースチームの選手は早朝から準備にかかり、うどんを茹でたり、ポテトを揚げたり、トップチームの選手も全員が合流して徹底して楽しませるイベントだ。
事業団の芦田専務理事にとって思い出深いのは、槙野 智章選手(現・浦和レッズ)のパフォーマンスだったという。子供を可愛がり、保護者をも楽しませる彼は若い頃から人気者だったという。目を閉じると、そんな子供達の歓声が聞こえてきそうだ。
練習場にほど近いところにユースチームの選手たちが暮らす三矢寮がある。サンフレッチェ広島F.C.ユースは全寮制で、皆ここで暮らす。ここから槙野選手のほか、駒野 友一(現・ジュビロ磐田)、柏木 陽介(現・浦和レッズ)、森脇 良太(現・浦和レッズ)、高萩 洋次郎(現・サンフレッチェ広島)、森崎 和幸・浩司(現・サンフレッチェ広島)ら多くの名プレーヤーが巣立っている。現在の寮長中山さんご夫妻は高校生世代の選手たちとっての親代わり。家庭的な雰囲気を大切にしながらも集団としての規律も大切にしているという。寮生は全員、地元の吉田高校に通う。中山寮長いわく「ユース選手にとっての地域密着とは、寮生が一人の高校生として真剣に高校生活と向き合うこと」だという。「クラスメイトは卒業後県外に出たとしても、いずれ故郷に戻ってくる。同級生が寮生たちをサッカー選手としてだけでなく、 一人の高校生としての姿勢を認めてくれるようになれば、きっとクラブのことも信じてくれるようになる」とのことだ。
最後になるが、寮の廊下に貼ってあった言葉を紹介したい。トップチームの選手が大きなクラブに移籍しても、常に次の若い選手を育てJリーグ2連覇を成し遂げたサンフレッチェ広島というクラブの真の力の一端を見たような思いだった。