携帯電話で試合速報をチェックしていて、ふと気付いた。「そういえば昔も我那覇にゴールを決められたな……」と。
明治安田生命J2リーグ第9節、アウェイに乗り込んだセレッソ大阪は3-1でカマタマーレ讃岐に勝利を収めたが、讃岐が一矢報いた我那覇和樹の鋭い右足シュートに古い記憶が呼び起こされた。
2000シーズンの1stステージ最終節。延長Vゴールを含めて勝てば初優勝というセレッソ大阪の夢を打ち砕いたのが、他ならぬ我那覇の右足だった。当時、川崎フロンターレに在籍していた沖縄出身のストライカーは前半、相手DFを背負ってくさびのボールを受けると、鋭くターンしてからの右足シュートで先制点をマーク。さらに1-1で迎えた延長後半開始早々にはファーサイドに走り込んだ浦田尚希に絶妙の右クロスを供給し、Vゴールとなる豪快なボレーシュートをアシストした。この試合で敗れたC大阪は土壇場でステージ制覇を逃し、横浜F・マリノスが逆転で優勝をさらっていく。先に試合を終えた横浜FMイレブンが国立競技場のピッチに座り込んで、オーロラビジョンに映し出される長居スタジアムの映像を見ている姿をご記憶の方もいるのではないだろうか。
「一つのクラブで『勝てば優勝』って試合に5回も挑みながら一度もタイトルを取ったことがない選手って、Jリーグの歴史でも間違いなく僕だけやと思いますよ」
引退後、自分とクラブの戦いを振り返って苦笑するのは、C大阪の歴史を紡いできた“ミスター・セレッソ”森島寛晃氏だ。彼が着けていた「8番」がクラブの代表的背番号となり、森島氏の引退後には香川真司(現ボルシア・ドルトムント/ドイツ)や清武弘嗣(現ハノーファー/ドイツ)、柿谷曜一朗(現バーゼル/スイス)といったチームの顔へと受け継がれている。
そんな森島氏がキャプテンマークを巻き、Jリーグ昇格から初めて首位に立った試合でステージ優勝を逃したのが、2000年1stステージの川崎F戦だった。
思い返せばC大阪はリーグ戦で2度、天皇杯決勝で3度の計5度も目前でタイトルを逸している。そのすべてに関係しているのが森島氏だった。Jリーグでは前述の川崎F戦に加え、年間1ステージ制となった2005シーズンにも勝てば優勝という最終節でFC東京に後半終了間際の同点弾を食らってV逸。天皇杯決勝ではJリーグ昇格を決めた1994シーズンにベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、2001シーズンに清水エスパルス、2003シーズンにはジュビロ磐田に屈して頂点には手が届かなかった。初タイトル獲得に懸けるクラブは他にもたくさんあるが、その中でもC大阪の想いが強いことは容易に想像できる。
だが、昨シーズンは“育成型クラブ”の代表格としてアカデミーから育った選手を中心にトップチームを編成し、優勝候補の一角に挙げられながら歯車が噛み合わず、まさかのJ2降格を余儀なくされた。世間の耳目を集めた「セレ女」ブームも一気に過ぎ去り、今シーズンは天皇杯こそ狙えるものの、J1リーグやヤマザキナビスコカップには挑戦権すらない状況にある。まずは悲願達成に向けての第一ステップとしてJ2を勝ち上がらなくてはならない。
各国代表クラスの選手を擁し、対戦相手から厳しいマークを受ける今シーズン。第10節京都サンガF.C.戦でフォルランがハットトリックをマークし、ようやく初めて連勝を収めた。10試合を終えた時点で首位に勝ち点4差の4位につけるが、J2は42試合の長丁場。勝負はまだ第一コーナーを曲がりかけたばかりの段階でしかない。「史上最高レベル」との呼び声高い今シーズンのJ2だけに、これから厳しい戦いが待っていることが予想される。近年はJ1昇格から一気に上位争いをするケースが増えているが、それはすべてJ2で作ったベースに上積みしたクラブばかり。ライバルのガンバ大阪が三冠を達成する姿を横目にJ2へ降格したC大阪としては、まさに将来に向けた臥薪嘗胆のシーズンするべき一年となる。
かつて、競馬の名実況に「菊の季節に桜が満開」というフレーズがあった。今シーズンのJ2はちょうど11月上旬に勝負どころを迎え、11月23日の最終節へと走っていく。ややスタートダッシュにつまずいたC大阪は、ここからしっかりと自らの根と幹に水をやり、養分を与えて、秋に満開の桜を咲かせることができるのだろうか。
同時に森島氏は強い口調で言う。「もう僕たちの頃とは時代は変わったんですよ。勝ち切れないセレッソは終わりです」と。
J2は決して簡単に勝ち上がれるリーグではない。けれども、足踏みをしているわけにはいかない。中長期的な将来像を見据えるからこそ、目の前の戦いが大切なのだ。クラブもチームもJ2でどんな根を張り、いかに幹を太くして、花咲かせる準備ができるかが未来へとつながる。毎日の水やりが、やがて咲き誇る満開の桜となるように。