春はニューカマー。もっと出て来い、東京五輪世代!
春はあけぼの。やはり転換の季節である。新しい指導者、新しい選手、そして新しいリーグにおいて各々がスタートを切る。明治安田生命J1リーグは1stステージ第5節までを消化し、「春の戦い」は佳境を迎えつつある。
そんな中、新世代の選手たちが新たにJリーグのピッチへ足跡を刻み込んでいる。1997年以降に生まれた“東京五輪世代”の選手たちだ。4月12日には、ヴィッセル神戸のDF藤谷壮が76分から甲府戦のピッチに立った。U-18チームに所属する17歳の高校3年生を、大量リードを奪って余裕のある状況で送り出したのはネルシーニョ監督の親心だったか。当人は「あんな大勢のファンの中でやれたことは本当に良い経験になった」と言いつつ、「自分のプレーを出すまでには至らなかった」と悔しそうだったが、まずは大切な第一歩となった。ちなみにクラブ史上最年少でのデビューである。
サイドバックとしての武器はスピードを生かした猛烈なオーバーラップ。かつてはFCバルセロナのダニエウ・アウベスを目標に挙げたように、サイドバックながら“目立つ”プレーを意識する選手だった。ただ、「最近は自分を目立つとかじゃなく、もっと監督に求められるプレーを柔軟にこなす。自分を極めるというか、そういう選手になりたい」と言う。ガムシャラなプレーから、大人のサッカーへ。その中間点にいる中でのデビューだった。
神戸では同じく1997年生まれのFW増山朝陽が4月8日に行われたヤマザキナビスコカップ予選リーグ第3節・仙台戦ではいきなりの先発デビューを飾ってもいる。東福岡高校を卒業し、今季から神戸に加入したばかり。正月の高校サッカー選手権でも活躍していたので、ご記憶の方も多いかもしれない。予想していなかったという先発起用に「テンパりました」と笑いつつ、「練習から試合を意識してやっていたら、けが人が出たときに監督が僕を使ってくれた」とも言う。
高校時代は外に張り出す典型的ウイングプレーヤーだったが、現在はより幅広いプレーを求められる中で、自分の殻を破りつつある。「先輩たちは『良くなってきたね』と言ってくれているけれど、まだまだ遠慮している部分もある。もっと周りに要求もできるようになりたい」と自分の課題を意識しつつ、次のチャンスを待つ。こうした意識を持たせることこそ、老練なネルシーニョ監督がいきなり先発起用した意図だったのかもしれない。
さらに時間を少しさかのぼると、4月4日の等々力では川崎フロンターレのMF三好康児もトップチームデビューを飾っている。彼もまた1997年生まれの東京五輪世代。抜群のテクニックを備えたレフティーで、メッシにちなんだ「ミヨッシ」の愛称で知られる。アディショナルタイムの投入であり、実質的に出番なし。本人も苦笑いするシチュエーションだったが、ファンが大音量で歌ったチャントはしっかりときこえていたようで、「気持ち良かった」。その声を、今度はもう少し長くきくために、日々積み重ねていくことになる。
J2に目を移すと、ロアッソ熊本で高校3年生のDF野田裕喜が活躍を見せている。2年生だった昨季に早くもデビューしているのだが、本来の所属チームは熊本ではなく、地元の強豪・熊本県立大津高校。部活に在籍したままJリーグでプレーできるJFA・Jリーグ特別指定選手を活用して、熊本の試合に出場しているのだ。
プロとアマの壁を越えて、地域で選手を育てる試みはJリーグならではのもの。昨季のデビュー後、野田自身も「意識が変わった」そうで、実際にプレー面でも大きな進歩が見られる。第3節・愛媛戦では先発フル出場で1-0の完封勝利に貢献するなど、決して“お客さん”ではなく、戦力として貴重な存在となってもいる。
徐々に頭角を現し始めた東京五輪世代。まだまだ有望な選手たちは全国にいるし、無名の逸材だって眠っていることだろう。暗夜を照らす日の出のような、そんな新世代がJリーグの舞台から育っていくことを期待している。