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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2015/3/18 17:24

維新公園に刻んだレノファ山口の第一歩。応援の幸せと、初々しき勇気(♯3)

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「オレンジに染まっていた。見渡したとき、鳥肌が立った。しびれを感じた」

3月15日、明治安田生命J3リーグが2度目の開幕を迎えた。今季からJ3へ参入することとなったレノファ山口にとっては、「初めてのJリーグ開幕戦」となる。ガイナーレ鳥取を迎え撃つことになった本拠地・維新百年記念公園陸上競技場には「初めてのJリーグを観てやろう」とばかりに、7千人余りのファンが詰め掛け、独特の空気感を作り出していた。初々しく、誇らしく、そしてワクワク感にあふれた、そんな空気である。冒頭のコメントは、そんな情景を目の当たりにしたMF鳥養祐矢の弁だ。

「アマチュア時代とは、やっぱり違った」と語る鳥養
「アマチュア時代とは、やっぱり違った」と語る鳥養

今年27歳になる鳥養は、ジャパンフットボールリーグ(主にアマチュアクラブが参加している全国リーグで、通称JFL。J3参入資格を競うリーグという一面もあり、山口も昨季までこのリーグに参加していた)で200試合以上を経験した歴戦の兵(つわもの)である。それは、あえて意地悪な言い方をすれば、これまで「Jリーグ」に届かなかったキャリアの選手ということでもある。だからこそ、「アマチュア時代とは、やっぱり違った」という言葉には、独特の重さがあった。

この日の山口のメンバー表には、「Jリーグ通算出場試合」の項目について清々しいくらいに「0」が並んでいた。J2とJ3で2シーズンを経験しているMF庄司悦大は完全に例外的存在。J1でわずか2試合の出場経験を持つ20歳のMF小塚和季(アルビレックス新潟から期限付き移籍中)は、2番目にJリーグ経験が豊富な選手である。

当然ながら「正直、緊張していた」(鳥養)という状態だったのも無理はない。初のJ3開幕戦に燃えるゴール裏のサポーターから送られる力強い応援も、緊張をほぐす要素になるはずもない。立ち上がりの出来は、決して褒められたものではなかった。だが、間違いなくひたむきだった。

印象的なシーンがある。開始10分ほどのことだった。激しいチャージを受けたMF福満隆貴が必死に踏ん張って体勢を立て直し、ボールを保持したシーンだ。恐らく倒れればファウルをもらえた場面だったと思うのだが、福満が選んだのはその当たりに立ち向かうこと。この姿を観たスタンドのファンからは大喝采が送られた。僕も記者席で思わず手を叩いてしまった。「あいつ、やるな!」。そんな声が聞こえてきた。

福満の果敢なプレーにスタンドからは大喝采
福満の果敢なプレーにスタンドからは大喝采

福満は昨年までJFLのヴェルスパ大分でプレーするアマチュア選手だった。そこでリーグ得点ランク2位になる活躍を見せ、今季から山口へ移籍してきた。「去年は敵として対戦して、すごいサポーターがいるし、本当にいいチームだなと思っていた」だけに、移籍の断を下すに当たって迷いはなかったと言う。

「僕にとっても初めてのJリーグだし、レノファにとって初めてのJ3開幕戦だった。すごく良い雰囲気の中で、本当に感謝しながら戦っていた」

必死に踏ん張ってプレーを継続することなど当たり前。そう話す福満の語調は、そんな心意気を感じさせるもので、この10分のシーンを境に、福満はこの試合で強烈なインプレッションを残すことになる。

試合は後半開始早々からの攻勢を実らせた山口が2点を奪い、鳥取の攻勢をしのいで快勝となった。試合前はゴール裏のサポーターが放つ情熱が印象的だったスタジアムも、終盤になるとメインスタンドやバックスタンドも熱を帯びるようになっており、逃げ切りに入ってからは万雷の手拍子が沸き起こり、選手の背中を押し始めていた。

初戦を白星で飾ったレノファ山口
初戦を白星で飾ったレノファ山口

「手拍子は、もちろんきこえていました」。山口の上野展裕監督はそう言って感謝の言葉を残し、先制点をマークしたFW岸田和人は「本当にやっていてすごく楽しかった」と率直に語ってくれた。

2-1での初勝利後、「今後のシーズンが楽しみになった」と語ったのは福満だが、この日の維新公園を訪れた山口県人たちの多くも似たような感想を抱いたのではないか。自然と感情移入できる郷里のチームがある幸せ。その実感を届けることができたこの日の山口イレブンは、初々しさと前向きさを兼ね備え、そして確かにプロフェッショナルだった。