10月の下旬にケーズデンキスタジアム水戸を訪ねた。かねてから水戸ホーリーホックの集客面での工夫や努力には注目していたからだ。まだ入場者数の絶対数は多いとは言えないのだが、昨シーズン平均入場者数でクラブ史上最高を記録し、今年もその記録を更新中である。
入場者数に関して、水戸ホーリーホックを取り巻く環境は決して恵まれているわけではない。競技順位に関して言えばJ2の中でも中位から下位に位置する。同じ県内には人気クラブの鹿島アントラーズが隣接し、スタジアムに関しても現在行政が改修にむけて検討を進めてくれているのだが、現状ではJ1ライセンスが付与されているわけではない。また、財政規模からみても有名選手が揃えられるわけではないのが実情だ。
しかしながら、クラブスタッフはそんな苦境にも言い訳をせずに、前向きに集客活動を展開している。しかも、しっかりとした仮説とシナリオを持っているのが特徴だ。「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、入場者数が増えるまでの因果関係をしっかり押さえて実践しているのだ。ホーリーホックの入場者数が増えるケースを、地域特性などを視野に入れて各種シミュレーションした結果、入場数を増やすためには「家族連れが増える必要がある」と結論付けたのだ。次に、家族連れが増えるためには「子供が観戦したいと思う」ことが必要であると位置づけた。子供が観戦に行きたがれば、親でも祖父母でも動かすことができるからだ。そして、子供の観戦を気軽に増やすために、小学生専用の「キッズパスポート」を用意した。小学生の子供は簡単な登録をすればパスをもらえ、1年間無料で入場することができるというものだ。このキッズパスポートの発行枚数をKPI(Key Performance Indicators=重要業績評価指標)と置いてその数値を徹底的に上げるための打ち手をどんどん投入している。
スタジアムの横にはミニ四駆のサーキット場があって水戸ホーリーホック杯を競って熱戦が繰り広げられているし、大洗町を舞台にした人気アニメーション「ガールズ&パンツァー」とのコラボ企画もある。当日の対戦相手カマタマーレ讃岐を記念した「讃岐うどん300杯無料サービス企画」には多くの家族連れが並んでいる。もちろんピッチではサッカー教室や前座試合、チアリーディングスクールなどが組まれ、スタジアムの内外ともに子供たちの笑顔が溢れている。
驚いたのは、水戸市内の神社を回って必勝祈願をし、造り酒屋を訪ねては乾杯をするという「おもてなしバスツアー」があることだ。黒服に蝶ネクタイ姿のバスガイド役は水戸市職員の須藤さん。このツアー、アウェイサポーターにも好評だという。このほかにもアウェイサポーター向けには「おもてなしブース」を用意して讃岐の名産品などを並べホーム感を演出しているのだという。もちろん水戸の市民にとっても讃岐のお菓子や名産品が手に入るのだから楽しみなはずだ。
ホーリーホックでは二週間に一度「集客ミーティング」を開き、打ち手となる様々なイベントの検証やキッズパスの動向を振り返って今後の活動に生かしている。まさにビジネスの基本であるPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返しているのだ。キッズパスの発券数と入場者数には明確な相関があり、仮説も裏付けられている。こうしたホーリーホックの努力は他のクラブにも手本になるし、クラブ経営の醍醐味も教えてくれるのではないだろうか。