2011年、九州新幹線鹿児島ルートの全線開業により、新大阪駅から鹿児島中央駅までの直通運転が開始された。「北から南まで一つにつながったのに、なぜ青森から鹿児島まで乗り換えなしで直通の長距離新幹線が走らないの?」Jリーグ世代の子どもたちから、こんな素朴な疑問が大人たちにぶつけられる。なるほど、日本列島を南北に約10時間で走り抜ける新幹線が存在しても不思議ではない。鉄道関係者によれば、線路はつながっているため、東京駅で一旦乗り換えを要する物理的な理由はないと聞いた。 乗入直通が当たり前の時代に、新幹線だけが東京駅を発着するスタイルにこだわるのは、永く日本人の心に宿る「上り下り」の意識と関係が深い。
明治になると、道路や鉄道では起点と終点を定めて、起点方向を「上り」、終点方向を「下り」と呼んだ。道路の起点は日本橋、鉄道の起点は東京駅だった。このため、全国から東京に向かうことを「上京する」と表現した。ところが、JR中央本線の塩尻~名古屋間では、名古屋方面を上り、東京方面を下りと呼ぶそうだ。地元意識の強い名古屋人の愉快な反逆精神を垣間見た。東京がすべての起点である必然性は、もはや日本人のノスタルジアにすぎないのか。 道路、鉄道、航空など高速交通網のあり方は、『国のかたち』を映す鏡である。ドイツに上り下りはない。中央や起点・終点をもたない分散型が、持続的なブンデスリーガの繁栄を裏付けている。新幹線はICE(Inter City Express)と呼ばれ、文字通り都市と都市をつないで走る列車を意味する。地理的には、フランクフルト中央駅が、東京駅にあたる位置にある。国の両端を結ぶ長距離ICEは、ターミナル駅のミュンヘンを朝出発し、フランクフルト中央駅を経由、夕方には一方のターミナル駅ハンブルクやベルリンに到着する。 先日、FDAが名古屋~高知間の、AIR DOが札幌~岡山間の航空路線を新設した。ローカルtoローカルの動きは、時代の流れだ。2年後、新幹線は長野(準加盟)から富山(J2)、金沢(準加盟)まで延び、北陸が東北とつながる。新幹線が地域をつなぎ合わせる姿は、Jクラブがリーグ戦を通じ全国のホームタウンとつながるアウェイツーリズムと重なり合う。
国際日本文化研究センターの白幡洋三郎先生によれば、江戸時代に「都会」は“づえ”と読まれ、すべて(都)があつまる(会)ところを指した。かつて京都であり、後に東京に移った。だが、Home&Awayのスタイルに馴染んだ新世代から見れば、一つの大都会を頂点にした上り下りの意識は時代遅れに感じる。そこで、大人は子どもたちにこう答えた。 「いま、“百年構想クラブ”という地域に根ざすHomeの種が、全国に蒔かれ始めた。君たちは、クラブを通じて生まれ育った街を大好きになる。たとえ小さくても弱くても、スポーツを愛する気持ちは同じ。やがて、それは誇りになる。そんなホームタウンの笑顔をいっぱい載せて、新幹線が日本列島を一気に駆け抜ける日が訪れるだろう。」