スタジアムが専門性を深めていく過程で、欧州大陸の多くは、陸上競技場からサッカー専用へ一気に進化した。我が国には、その間に「球技場」と呼ばれる形態がある。Jリーグ40クラブのスタジアムのうち、陸上競技場が23、サッカー専用が6つ。残りの11が、この「球技場」である。 球技場は、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール(アメフト)など屋外型の球技に使用可能とされる。ベースボール(野球)だけは、グラウンドの形状が異なるからか、長い伝統と文化の故か、古くより野球場として独立した専用スタジアムが認められた。
同じ球技と言っても、ルールが異なれば同居の気苦労は何かと多い。 まず、必要とする芝生の範囲がちがう。一般的に、アメフトは110m×49m、サッカーは115m×78m(ピッチ105m×68m)、ラグビーは130m×80m。ゴール裏席までの距離は、陸上競技場の45mは論外としても、専用に比べると約10m遠く、劇場空間を体験するには物足りない。このため「キンチョウスタジアム」(C大阪)では、この距離感をホームの利で補う工夫をする。ピッチの枠を、サッカー専用並の近さまで、地元サポーターが陣取るゴール裏寄りにずらした。 異なる線引きも混乱のもと。昨シーズン、ベガルタ仙台開幕戦の中継の映像には、直前に行われたアメフトの細かなラインがはっきりと残って見えた。 一番の気がかりは、“芝生愛”の差である。わかりやすい例として、三競技の選手が、ゴルフコースで順番に打つとしよう。まず、アメフトの選手がドライバーでティーショット。ボールをティーアップできるので、芝生に球が直接触れることはなく人工芝でも十分だ。第二打は、ラグビー選手がアイアンでグリーンをねらう。
ボールのライ(状態)は、天然芝であれば構わない。打ち込んで芝が剥がれても、上から元に戻しておけばすむ。問題は、グリーン上でパッティングをするサッカー選手だ。微妙な芝目や傾斜が球の方向性や転がりに大きく影響する。常に良好なコンディションの維持は、サッカーの生命線である。 専用の条件には、ホームクラブの優先権が欠かせない。それでこそ、ホームスタジアムと呼べる。他の競技と共用になれば、ピッチコンディションの維持はもとより、ホームゲームの日程調整でも自由度が大きく損なわれてしまう。 陸上競技場から球技場への進化は、確かにJリーグの価値を格段に高めてくれた。ただ、一見効率的にみえる多目的な球技場では、真のスポーツ文化には届かない。まだ、その先があるのだから。