欧州サッカーには、シャルケ(ドイツ:ゲルゼンキルヘン市)、キエーボ(イタリア:ヴェローナ市)、フェイエノールト(オランダ:ロッテルダム市)など、大都市内の一地区の名を冠したクラブが世界的な活躍をしている。 Jリーグは、地域の文化である。クラブの地名は、ホームタウンのあり方と関係が深い。これは、台風に例えてみるとわかりやすい。ホームタウンを商圏と取り違えて広域化して広域名を名乗ったとしても、強風圏ばかりが大きな弱い勢力になりやすい。これに対し、特定の生活エリアに絞り込んだクラブほど、小型に見えても暴風圏を保った強い勢力になり得る。その違いは、「台風の目」の存在だ。むしろ、小さい故に『うちの』(クラブ)という意識が身近に温かい関係を育み、ホームタウンにしっかりとしたコア(核)が生まれる。 こうしたネーミングの考え方は、他の世界にも拡がっている。
地域おこしで人気のB級ご当地グルメでは、八戸(せんべい汁)、横手・富士宮(やきそば)、厚木(ホルモン)、津山(うどん)など。日生(ひなせ)(お好み焼き)や蒜山(ひるぜん)(やきそば)に至っては、岡山県内の一地域名にすぎない。さらには、AKB48は東京都内の秋葉原が本拠地であることを表す頭文字。SKE48は栄(名古屋市)、NMB48は難波(大阪市)そしてHKT48は博多(福岡市)と九州まで続く。V・ファーレン長崎のJ2入会、大分トリニータのJ1昇格やサガン鳥栖の大健闘の九州勢にあって、博多にあるアビスパ福岡に元気がないのは気がかりだ。 博多と福岡、この二つの地名には因縁の歴史がある。千年以上も前から栄えてきた港町「博多」だが、17世紀初め関ヶ原の合戦後の論功行賞で領主を任された黒田長政は、自分が生まれた備前の国の福岡村(現岡山県瀬戸内市長船町内)に因んで「福岡」と名づけた。以後、城下町の福岡と商人の町の博多が、中州(那珂川と博多川)を挟んで存在してきた。これが、明治維新に初めて市名を決める際に問題となる。結局、両地域をまとめた新しい町の名は「福岡市」に決まり、その年末に開通した鉄道の駅名を「博多駅」とした。
その後も市民の「博多」に対するこだわりが根強いことは、その名を冠した知名度の高いものが「福岡」と比べ数多いことからよくわかる。博多っ子、博多美人、博多どんたく、博多織、博多ラーメン、博多人形、博多弁、東平尾公園博多の森球技場・・・。約九百年も続く男の祭り「博多祇園山笠」のクライマックスである追い山笠のコースは、スタートの櫛田神社からゴールまで一度も川を渡ることはない。 ホームタウンの目には、祭りがお似合いだ。祭りの盛り上がりには、強い地元意識に訴える“ツボ”がある。地名に対する熱い思いも、大事な一つにちがいない。