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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

スポーツ文化の伝え方

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欧州のサッカーに興味を持ったのは、今から44年前のこと。月刊のサッカーマガジンに掲載された各国リーグの成績表には、ずらりと都市の名前が並んでいた。企業の名前が当たり前の日本サッカーリーグ(JSL)やプロ野球とは異なり、新鮮な爽快感と大きな驚きを覚えた。 アメリカ生まれのプロスポーツは、本拠地名に愛称をつけてエンターテインメント性が感じられる。日本の情報は愛称ばかりがとりあげられ、広い合衆国のどこを本拠地にしているチームなのかわかりにくいが、米国内では欧州と変わらぬホームタウン制の強いスポーツ文化として伝えられている。

現地から届くテレビの大リーグ中継を見てみよう。画面右下のスコア表記は、日本でお馴染みのレッドソックス、カージナルス、オリオールズ、タイガースなどの愛称ではなく、BOS(ボストン)、STL(セントルイス)、BOL(ボルティモア)、DET(デトロイト)のように本拠地名の略称が使われている。スタジアムの外野フェンスに目を向けると、他球場の途中経過を知らせるボードにも、同じ都市名の略称が使われていた。これは、NBA(全米プロバスケットボール)やNFL(全米プロフットボール)など他のプロスポーツの伝え方も同様である。 面白いのは、選手のユニフォームの胸にある文字が、ホームとアウェイで使い分けられていることだ。愛称は、親しい間柄で相手を呼ぶときの暗号のようなもの。地元のファン・サポーターで埋め尽くされたホームでは、愛称やエンブレム入りのものを着用する。

一方、ホームを離れたときチームとファンをつなぐ絆は、ホームタウンの名前であった。アウェイの地で、愛する町の名を胸に刻んだユニフォームを身にまとい共に戦う。 愛称の存在は、サッカーの世界では一般的ではない。21話で紹介した通り、欧州のクラブもスタジアムも、愛称は長い歴史の中でごく自然につけられてきた。大都市ロンドンにあるクラブは、本拠地名とは異なる名前で親しまれているところが多い。そんなクラブの一つアーセナルを、ドイツ駐在時に見た欧州チャンピオンズリーグの中継画面では「A・London」と伝えていた。 愛郷心は、世界共通の言語である。Jリーグそれ自体を語る言葉は、この20年間守り抜いてきた「ホームタウン」をおいて他にはない。都市対都市の構図として、地域に根ざしたスポーツを伝えていく先に、文化は生まれる。