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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

風景印

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ロンドン五輪のサッカー競技は、6つの会場で行われた。どの入場チケットにも、スタジアムの外観がピクトグラム(絵文字)で描かれていた。特徴を良くとらえ一目でどこかわかるデザインに、スポーツ文化の長い伝統が感じられる。 日本にも、似たものがある。郵便局の『風景印』だ。正式名称を「風景入通信日付印」といい、切手の下に押される直径36mmの「消印」の一種である。ただ、郵便局の窓口で「風景印を押してください」と頼まないと押されない特殊な消印のため、これまであまり知られていない。初めて使用されたのは、意外と古く1931年の富士山局と富士山北局にさかのぼる。 気軽にどこでも写真を撮って、すぐに送れる環境になかった時代に、訪れた土地の絵葉書を使って、友人や知人にその場から送る楽しみとして考案された。

街の局ごとに、独自に図案化することができる。全国に約2万4千ある郵便局のうち、現在では約半数の局に設置されている。 図案のテーマとして、郵便局のある街の誇りが採用される。名所旧跡、名産品、歴史(武将、城、仏像など)、著名人、グルメ、鉄道、温泉、動物、地場産業など様々だ。形も、丸型にこだわらなくなった。旭川川端局のキタキツネの顔、函館神山局のイカ、もみじ局(厳島神社)のもみじ、長府駅前局(山口)のフグなどユニークさを競う。"風景印の案内人"こと古沢保氏は、図案からその街の歴史を学ぶことができる点で、風景印は「時代の証言者」であると表現している。例えば、かつては後楽園球場だった東京小石川局の図案は、今では東京ドームに変わった。熊本では、人気のクマモンが採用されるなど、今も新しい図案が全国各地に誕生している。

Jリーグのスタジアムを、デザインの一部に取り入れた郵便局も増えている。鹿嶋局では、鹿島神宮と並んでカシマスタジアムと選手が描かれている。日産スタジアムを背景に用いているのは、新横浜駅前局のほか3局。新潟県庁内局に行くと、アルビレックスのホームスタジアム:東北電力ビッグスワンスタジアムの入った風景印を押してもらえる。 風景印のホームタウンは、市町村よりも小さい身近な生活エリア単位である。最寄りの郵便局にスタジアムの風景印があれば、足を運ぶサポーターの楽しみもふくらみ、アウェイツーリズムは一層楽しいものになる。 駅内、ホテル内、官庁内など、郵便局は人の大勢集まるところにある。街なかにスタジアムがあれば、その内に郵便局をつくり試合のある日も営業する。"スタ内局"からスタジアムの風景印の押された「スタジアムの絵葉書」を出す。時には一瞬で送信できる写メールもいいが、試合の感動や想い出を手にとって伝える道具も大切に残したい気がする。