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コラム

Jリーグチェアマン 村井満の“アディショナルタイム”

2014/10/20 10:00

「縦の美学」が結実した時(♯21)

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クラブのコンセプトブック「縦の美学」
クラブのコンセプトブック「縦の美学」

 J2リーグ戦で湘南ベルマーレは6試合を残しながら、驚異的なスピードで優勝を決めた。「開幕から14連勝」、「優勝決定までホームゲーム負けなし」という記録まで残して。今回の優勝は、ベルマーレとして初のリーグ戦タイトルである。全てのクラブ関係者、ファン・サポーターの努力の賜物であり、心からお祝いを申し上げたい。

雨の開幕戦で勝利。これが14連勝の始まりだった
雨の開幕戦で勝利。これが14連勝の始まりだった

  今年の3月2日。J2開幕戦の視察は湘南ベルマーレのホームゲームでと決めていた。その理由は一冊の本にある。「縦の美学」という一冊の本を手にしていたからである。今年の2月、チェアマンに就任したタイミングでクラブ関係者から送っていただいたものだ。 

「縦の美学」を支える主将・永木亮太選手
「縦の美学」を支える主将・永木亮太選手

 少し長いのだが、現社長の大倉智氏のコメントを引用してみたい。

新任チェアマンとして初めて優勝シャーレを渡した
新任チェアマンとして初めて優勝シャーレを渡した

「ブンデスリーガは本当に変わりました。かつては観客の入らない時期もありましたが、いまは多くのファンやサポーターが詰めかけ、スタジアムは興奮に包まれています。理由はほかでもない、サッカーの内容です。トップレベルの選手たちが90分間、ハードワークし続ける。目の色を変えてボールを追いかける。クオリティの高いサッカーが迫力をもたらし、観る者を虜にする。とてもシンプルですが、プロのサッカーのあるべき姿はここに尽きると思います。かたや昨今の日本のサッカーは、勝利を追い求めるあまり、プロセスを蔑ろにしているように思えてなりません。Jリーグの観客数が減っている要因は、こうした試合内容に集約されているのではないかと考えます。プロとして勝利を目指すのは当然のことです。しかし、興行として、それ以前に職業として、笛が鳴るまで走り切らなければ、それは仕事放棄と言えるのではないでしょうか。」

 現社長の大倉智氏は、「常にゴールを意識しながら縦にボールを運ぶサッカー」を湘南スタイルとしたうえで、書籍の中で次のように自分たちのサッカースタイルを記している。

「湘南ベルマーレは親会社を持たない市民クラブです。限られた予算のなかでリーグを勝ち抜いていくには、90分間ハードワークし、攻守ともに人数をかけ、組織的に闘うしか術はありません。そしてこの湘南スタイルこそが勝利の確率を高める我々の最大値だと信じています。これはチームだけに限りません。フロントも含めてスタッフ一人ひとりが湘南スタイルを自覚し、日々仕事と向き合わなければなりません。」

  このように自分たちが目指すサッカーを言語化し、サポーターと共有できているクラブの絆は深い。「勝ったら拍手、負けたらブーイング」ではなく、勝ち負けを超えて、「自分たちのサッカーができたかどうか」が拍手や歓声のポイントとなるからだ。これは昨シーズン降格した時も、今年昇格を決めた時も変わらない価値基準だ。大雨の中モンテディオ山形を迎えた開幕戦でも、このスタイルを直接確認することができた。

  今年の開幕にあたり、私から各チーム関係者に3つの約束をお願いした。その中の一つは「笛が鳴るまで全力でプレーしよう」というものだ。簡単に倒れない、接触後の過度な痛がりはしない、というメッセージも添えている。これはまさに湘南スタイルに通じるものでもある。どのクラブにも求めたい「全力プレー」を前提としながらも、個々のクラブのコンセプトやスタイルは多様である。それぞれが言語化され、サポーターとともに共有され、観戦の軸が得られればサッカーの楽しみはさらに大きなものとなるだろう。