今から50年前のこと。戦後の西ドイツは、見事に経済復興を果たしていた。他方、進展する工業社会は、労働者の運動不足から心身の健康に弊害をもたらし、医療費負担は急増した。そこで、政府はスポーツの万能に注目する。地域と連携し、生涯スポーツの施設整備のため15カ年計画の『ゴールデンプラン』(第25話)に着手した。目標の1970年代後半には、各地でスポーツクラブの総合型化が進み、高齢者でも気軽にスポーツを楽しめる環境が整った。 ゴールデンプランから30年後の姿を、ドイツスポーツ連盟の統計(2005年)でみてみよう。60才以上のシニア世代は、全人口の25%を占める。このうち、16%の333万人が、地域のスポーツクラブの会員に登録して元気にスポーツを続けている。種目別には、[1]体操81万人(23%)[2]サッカー65万人(18%)[3]射撃37万人(11%)[4]テニス28万人(8%)[5]障害者スポーツ17万人(5%)以下、登山、ゴルフ、フィッシング、陸上競技、スキーと若者顔負けの現役ぶりである。男性で一番多いのはサッカーの57万人、女性では体操の56万人。これを日本の人口(128百万人)で換算してみた。60才以上の会員総数は約500万人、うちサッカーなら100万人という夢のような数字になるが、実際そうはいかない。
わが国では、いま社会保障と税の一体改革の議論が大詰めを迎えている。背景には、同じく高齢化社会を迎えた医療費の増加がある。国内総生産(GDP)に対する医療費比率を少しでも抑えるために、「健康寿命」の長い人間づくりが求められている。健康寿命とは、介護なしで"自立"して毎日を元気に暮らすことができる期間のことだ。 あなたの町にJクラブがあれば、ホームチームの応援ができる、ボランティアとして支え合える、チームの話題が家族や地域のコミュニケーション促進につながる、地元を離れても誇りをもてる。いずれも「心」の健康の原動力となり、人に生きがいを与える特効薬になる。「身」の健康についてはどうか。車社会やIT社会など文明が進化すればするほど、人間の細胞に身体的な刺激を与える上で、ますますスポーツは欠くことができない。ドイツのように、いつでも、どこでも、好きな種目を、自分のレベルに合わせて楽しめる地域の総合型スポーツクラブがあれば、健康寿命を長くする効果があるだろう。
『健康寿命延伸都市』を将来像に掲げるJリーグのホームタウンがある。日本アルプスを頂く美しい山岳の「岳都」、サイトウ・キネン・オーケストラに代表される音楽の「楽都」、旧制松本高等学校当時から受け継がれる学問の「学都」。松本山雅FCの本拠地の松本市(人口24万人)だ。市長の菅谷昭氏は、医師でもある。実現に向けた策に、松本山雅FCの果たす役割が具体的に記述されるなど、地域の期待は大きい。 市民の心身の健全な発達への寄与は、Jリーグの理念そのものである。