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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

なでしこ再考

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北陸からJリーグを目指すツエーゲン金沢(JFL所属)の応援団に、今シーズンから女性のコールリーダーが誕生した。これまで男子がリードしてきたサッカー界に、"なでしこ"が台頭してきたことは、時代の流れと無縁ではない。 140年余り続いてきた我が国の人口増加期は、明治の文明開化から戦後の高度経済成長まですべてが右肩上がりだった。人が増えると、食糧、住宅、学校、オフィスなど「モノ」と「カネ」が不足して、チカラは自ずと外へ外へと向かう。時には、国同士の争いが起きたのもこの時代である。目の前の、どこかに、何かに追いつき追い越せと駆り立てる心理は、本来男子の得意とするところ。だが、人口が減少に転じると、これまでの価値観を一変して、目標にすべき夢や希望を内側に創り出すことが求められる。

人口減少は、有史以来4度目。過去3回は、源氏物語や枕草子に代表される和歌・文学の平安中後期、能楽・芸能など庶民文化が栄えた室町時代、全国300余りの藩単位で独自の地域文化が華開いた江戸中後期。こうして文化を重要な投資対象とする時代には、予算に恵まれずとも、自由な創意工夫の才に長けた"なでしこ"たちの役割が欠かせなかった。 そう考えると、昨年FIFA女子ワールドカップで、男子に比べ恵まれない環境下の"なでしこJAPAN"が、先に大きな偉業をやってのけたこともうなずける。人口減少の閉塞感の中で、女子力が大きく花開いたのだ。しかし、競技レベルでは世界の強豪と肩を並べるところまできたが、スポーツクラブの環境面はこれからである。 ドイツで以前に暮していた所は、熊谷紗希選手が現在プレーする1.FFCフランクフルトのホームスタジアムの近くにあった。真冬の昼間に気温0度の中、約500人の熱心なサポーターがスタンドから声援を送る。でも、寒いのは試合の間だけ。入口で当日のスタンプが押されたシーズンチケットを見せ、全席屋根に覆われたメインスタンド上部にある温室のようなガラス張りのラウンジスペースに入れば、暖かい食事や飲み物をとりながらクラブ仲間と歓談できる。見た目は質素な施設だが、どこもアットホームな雰囲気だった。

こうした環境を支えるドイツの女子サッカー登録人口は、日本の男女合わせた全登録人口に匹敵する約90万人。これが、わずか2.5万人の日本との差だろうか。 日本代表を擁する岡山湯郷ベルと同じ岡山県にあるFC高梁が、昨シーズンのなでしこチャレンジリーグ(2部)で優勝したが、残念なことに、準加盟クラブ認定に適したホームスタジアムが地元に見つからず1部昇格を果たせなかったという。 地域に根ざした女子スポーツの環境整備もまた、百年構想につながる大切な道である。