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コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

サポーターの千社札

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先日、京の街で舞妓さんから「花名刺」の話を伺った。普通の名刺の三分の一ほどの和紙に、御座敷のあるホームタウンと自分の名前を刷ったもの。裏側がシールになって貼り付けられるものが、現在の「千社札」である。日本独特の粋なデザインに感心させられる。 千社札は、社寺や仏閣の柱や壁に貼られている。お伊勢参りや諸国巡礼の旅の際、参拝の記念として自分の名前を書いた札(ふだ)を奉納したことが起源のようだ。最近では、空港や観光地にあるホテルに、手作りの千社札製作機も登場。好みの絵柄をあしらった個性的なものもつくることができ、Jクラブのファンショップ内でも見かける。 一週間後のホームゲームまで待てない熱いサポーターがアウェイまで大挙乗り込む。欧州の場合、彼らはチームと同じく敵視の対象となり、歴史的な因縁や試合の内容如何では一触即発の恐怖と常に対峙する。

このため、ホームとアウェイ席の間には物理的な緩衝地帯が設けられ、緊張感がいつも漂う。2008欧州サッカー選手権の会場の一つ、オーストリアのクラーゲンフルトのスタジアムでのこと。アウェイ側の立ち見席の手すりに、ザンクト・パウリ(ドイツ)のご存知ドクロマークのシールが千社札よろしく貼られていた。 Jリーグは、欧州とは違っていい。世界のどこよりも、スタジアムをフレンドリーで快適な空間に演出できないだろうか。 先日行われたV仙台のホームゲームでは、対戦相手C大阪が、京都サンガとのチャリティマッチの際に両チームのサポーターからもらった復興激励の寄せ書きをV仙台に届けた。 ならば、試合の前後に両チームのサポーター同士が交流する広場があれば。毎年訪れた交流の記念に、アウェイサポーターが自前の千社札を貼る『アウェイ・ボード』がスタジアムの壁に設けられていれば。 各チームのアウェイサポーターには、固有のニックネームが付いていると親しみやすい。FC東京の場合、すでに「イナゴ」の愛称で呼ばれているそうだ。

何でも、スタジアムの飲食店に用意されたご当地グルメを見事に平らげてしまうことに由来するとか。かように、すべてのクラブの仲間たちにニックネームがあれば、迎える側も自然ともてなし上手になる。 スタジアムに残された多種多様な千社札は、“アウェイツーリズム”の軌跡としてスポーツ文化をカタチにする。時を経て、千社札に彩られたアウェイ・ボードがスタジアムの一部と化した光景に、年に一度その地を訪れる楽しみがまたひとつ増すだろう。