今日の試合速報

コラム

百年構想のある風景

2015/1/30 10:00

テレビのちから

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「○○を百倍楽しむ方法」というフレーズが流行した頃があった。ならばと、サッカー中継を百倍楽しむ方法について考えてみる。 先日、将棋の羽生善治名人から興味深い話をお聞きした。将棋の世界には、"勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし"という言葉がある。負けた原因を探るために、対局後に対局者同士がお互いの指し手を最初から振り返る反省会を公に行う慣わしがある。これを、『感想戦』と呼ぶ。「もしも、こう指されたら、こうするつもりでした」と相手に言われて、自分では「こう指すのが普通だと思っていたのに」と、良き意外性を互いに発見できる場だという。

ドイツに暮していた時、ブンデスリーガのTV中継にも似た場面があった。試合が終わると、アナウンサーと解説者の間に両監督を招いて、テレビカメラを前に活発な感想戦が始まった。視聴者にとって、これほどリアルなサッカー中継はない。 実況番組の元祖は、1968年から20年間東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送された『ダイヤモンドサッカー』である。毎回「サッカーを愛する皆さん、ごきげん如何ですか・・・」のセリフで始まる番組は、単に画面の中の試合を実況するだけではなく、欧州のスポーツ文化やそれを支える風土を織り交ぜた内容で、巧みな情報戦略性を感じた。 コーナーキックの場面では「カーブがかかる!」の決まり文句を連発する金子勝彦アナウンサーと、素人にもわかりやすく柔らかな物言いで解説してくれる岡野俊一郎氏(元日本サッカー協会会長)の名コンビ。二人のやりとりが、欧州のサッカー中継という素材を、豊かなスポーツ文化に変え、テレビの向こう側に伝える番組に仕立てあげた。 自宅のテレビで試合を観戦するとき、Jリーグ中継と同じ時間帯に他局で欧州のリーグ中継が重なることがある。こんな時には欲張って、二試合同時に二画面に分けて観戦する。

ふと気づくと、欧州はすべてサッカー専用スタジアムの画面、一方のJリーグは大半が未だ陸上競技場を映し出す現実に違和感をもった。 ホームカラーに染まった大勢のファンが緑鮮やかなピッチを囲むサッカー場、陸上トラックに遮られファンの姿が隠れて見えない陸上競技場。Jリーグも、早くサッカー場からの中継が普通にならないだろうか。いま画面に、何が見えて何が見えていないのか、テレビの前の視聴者と同じ目線で伝わることは、まず第一歩である。 両者のスタジアムの相違をみんなに語りかける実況の先に、Jリーグのスタジアムの未来が見えてくる。