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コラム

Jリーグチェアマン 村井満の“アディショナルタイム”

2014/9/29 10:00

試合観戦のプロ集団はビルの中に(♯19)

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データスタジアム(株)のオフィス。徹底的に鍛えられたプロフェッショナル達がJリーグの試合分析を行っている。
データスタジアム(株)のオフィス。徹底的に鍛えられたプロフェッショナル達がJリーグの試合分析を行っている。

 Jリーグの開催日であったある日、私は珍しくスタジアムには行かず、とあるビルの一室を訪ねた。そこでは若者たちが真剣な表情でパソコン上の動画を睨み続けている。ここはスポーツに関するデータ分析、配信のプロ集団「データスタジアム株式会社」の本社だ。

 この集団には大きく分けて二つのグループがあった。「ライブ分析チーム」と「詳細分析チーム」だ。「ライブ分析チーム」は4人が1グループとなり、ボールに絡むプレーデータを逐一入力しライブでネットに配信している

「ライブ配信チーム」。手前から二人目の若者が「読み上げ」担当。それをもとに「内容入力」をする担当が右側で、「位置情報入力」を担当するのが左側の若者。奥の若者がテキスト入力。もの凄い連携スピードだ。
「ライブ配信チーム」。手前から二人目の若者が「読み上げ」担当。それをもとに「内容入力」をする担当が右側で、「位置情報入力」を担当するのが左側の若者。奥の若者がテキスト入力。もの凄い連携スピードだ。
 

 写真の手前から2人目、紺色の上着を着た若者がライブ画像を観ながら次々と選手のプレーを解説していく。「誰が」、「どのようなプレー」をしたかを伝えていくのだ。彼は選手のスパイクの色や足技の癖、姿勢などでプレーヤーが誰なのかが瞬時に分かってしまうのだという。プレーの内容も「トラップ」、「パス」、「ドリブル」、「シュート」や「タックル」「インターセプト」など様々だ。そしてその結果も、「成功」「失敗」などといった形で合わせて伝えられていく。そして、右隣の若者がその「誰が」、「どのようなプレー」をしたかについて画面からボタンを選択していく形で逐一入力していく。さらに、読み上げ担当の左隣側にいる若者は、それを聞きながらそのプレーがどこで行われたかを動画を見ながら位置情報(座標)を画面にカーソルを合わせるようにしながら入力していく。こうした3人の連携がシステム上で同期されると、「前半21分に鹿島アントラーズの小笠原から敵陣、横浜F・マリノスサイドのペナルティエリア内に向けて出された縦方向のロングパスが成功」といった内容とともに動画上のデジタルデータとしてタグ付けされるのだ。そして一番奥の若者はライブでのゲームの解説をテキストとしてどんどん入力していく。これらの記録は自在に検索も可能なものだ。私は4人のあまりの手際の良さにしばし圧倒されてしまった。

 

画面をコマ送りしながら詳細データを分析し入力していく。1試合あたり2000項目を12時間近くかけて処理していく。
画面をコマ送りしながら詳細データを分析し入力していく。1試合あたり2000項目を12時間近くかけて処理していく。

 もう一つの「詳細分析チーム」は、試合終了後24時間から48時間以内に詳細データを分析するチームだ。90分の試合に関して、一人の分析官が12時間近くかかって2000項目に上るプレーを細かくデータ化していく。試合映像をコマ送りしながら、右足シュート、左足シュート、ワンタッチシュートといったシュートの種類のほか、空中戦勝利や特定エリア侵入回数、こぼれ球奪取などを記録していく。そうした詳細データは各クラブの強化担当が対戦相手のスカウティングに活用したり、レフェリー研修で活用されたりしている。先日私はプロフェッショナルレフェリーの研修会に参加したが、この分析システムが活用されて微妙な判定を何度も繰り返し確認し議論されていた。こうしたデータはJリーグの公認データと呼ばれる。

 こうした動画ベースのデータとは別に、Jリーグの公式サイトの「成績・記録」のページに格納されているものは、Jリーグが開幕して以来のもので公式記録であるが、これもサッカーファンにとっては宝の山だ。https://data.j-league.or.jp/SFTP01/

(現在、公式記録の集計作業はデータスタジアムに業務委託している)

 たとえ20年前の試合であっても、特定のクラブの試合のスタメン、サブメンバー、結果や得点者などの検索ができる。Jリーグが開幕してからの得点ランキングだって分かるし、自分の好みのチームと特定対戦チームとのJ開幕以来の結果がすべて瞬時にわかる。順位の推移もどの年度であってもクラブごとに出せるし、入場者数も年度別で推移を見ることができる。一度覗いてみてはどうだろう。

 Jリーグは来シーズンからより多くのデータの収集に向けて投資をする予定だ。「トラッキングシステム」と呼ばれるもので、ボールに絡まない選手やレフェリーの軌跡をもすべて把握し、データ化するものだ。もちろんボールの軌跡も追跡できる。このシステムを使えば、選手の速度や加速度、走行距離、選手間距離、移動エリアなどが解析できてアニメーションで再現できるのだ。まずは来年度J1の全試合からスタートしたいと考えている。 

 もちろんサッカーはデータだけで語られるものではない。意外性のあるプレーやファンタスティックなプレーも大きな魅力のひとつだ。こうしたアートの側面とデータをもとにしたサイエンスの側面は、試合終了後のファン・サポーターにとって何よりの話しのネタとなるだろう。スタジアム周辺の至る所でこうした熱いサッカー談義が繰り広げられたら素敵だなと思わずにいられない。