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コラム

百年構想のある風景

2015/1/12 10:00

種を蒔く人

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FIFAワールドカップ南アフリカ大会出場32カ国の中で、レベルの高い欧州リーグに属する選手の数は、北朝鮮を除くと日本が最少で、さらに上位を目指すためにはもっと増やさねばという声が高まった。大会後には、新たにGK川島、DF内田、長友らが参戦した。 決勝トーナメント1回戦対パラグアイ戦のあと、長谷部誠選手(独ヴォルフスブルク所属)がテレビのインタビューで発した自然な言葉に引き込まれた。「ほとんどの選手がJリーグでプレーしているので、そちらにも足を運んでください」。彼は、一試合平均入場者数世界最多の4万人を誇るブンデスリーガに身を置いているから、自国リーグの発展こそが一番だと感じたのではないだろうか。

彼こそ、日本サッカーに“種を蒔く人”である。海外でプレーを経験した選手たちは、そこで学び得たすべてのこと、プレーのこと、スポーツクラブのこと、ホームタウンのこと、スタジアムのこと、クラブハウスのこと、スポーツ文化のこと、を“種”として持ち帰り、日本中に蒔いていく使命がある。 郷土土佐の尊敬する人物に、明治・大正時代の植物学者:牧野富太郎博士がいる。幼い頃から植物が大好きだった師は、貧しい生活環境下も独学で、日本の植物分類学の基礎を創った。蒔絵用の極細筆を使った精密な植物画は、葉脈や根の一本一本にいたるまで精緻に描かれている。植物として、発芽し、開花し、実をつける有り様を観察した正確な線描には、多くのファンがいる。なぜなら、個の記録でしかない写真とは異なり、そこにまぎれもない真実があるからだろう。 日本代表は、いつも大きな“果実”である。南アフリカでその実がはじけて、選手は無数の“種”を日本中に蒔き散らした。今度は彼らが、新たに育てるものとして成長する番である。

まだまだ歴史と伝統の浅いJリーグを世界に少しでも近づけるために、欧州に旅立つ選手は、豊かな土壌で新しい種子を膨らませてくるにちがいない。国内では、Jリーグとともに成熟した種が発芽する日も近いだろう。 代表やリーグの強さは、底辺に根を張る地域単位の力の総和となってあらわれる。31話で紹介した10年に一度の「キリスト受難劇」が、今年ドイツのオーバーアマガウ村で上演されている。この劇を指揮する世界的に有名な総合プロデューサーが、近隣にある芸術の都ミュンヘンやウィーンではなく、人口5千人のこの小さな村に居を構え活動しているところに意味がある。未来は、“種を蒔く人”からはじまる。