桜の季節に思うこと。 40数年前、国鉄バスの車掌だった故佐藤良二さんは、お客様にバスの旅を楽しんでもらおうと考え、乗務する名古屋-金沢間の道を桜の木でつなげる壮大な夢を抱いた。故郷(岐阜県)の荘川桜:エドヒガンザクラの種から自らの手で丹念に育て上げた苗木を、国道156号線沿いに二千本ほど植えたところで、病気のため47歳でこの世を去った。 何かと何かをつなぎ合わせ新たな価値を創造するための存在は、かつて化学の授業で学んだ「触媒」の役割に似ている。「触媒」は、成果に直結する得点者とはならないが、ゴール(目的達成)への過程では欠かせない存在である。サッカーの試合では、つなぎ役のアシスト者に得点者同等の高い評価と賞賛が与えられる。 今日の市場経済重視の成果主義では、“つなげる”行為に対する評価が十分ではない。
4年前、宇宙飛行士の毛利衛さんから、「われわれ人類の存在は、過去のあらゆる生命体(先祖)の存在や歴史とつながっている。つながりの中で、自分が生かされていることを決して忘れてはならないのです。」と自らの宇宙観を伺ったことがある。 フランクフルトに着任早々、まちの中心地で古い大きな建物の解体現場に出くわした。ただの建替えではない。歴史を刻む大きな壁を三面残したままの工事は、約3年がかりで完成した。保存された外壁が醸し出す伝統と新築の機能的な内装が見せる革新とが見事に調和する。再生したのは、シネマコンプレックス(複合型映画館)だった。 近郊にある名門クラブ:ビクトリア・アシャッフェンブルクのスタジアムは、昇格により増える観客に対応するため、その都度増設したスタンドが無造作につながり、まるで遺跡のようでおもしろい。
1903年創立のSCフライブルクは、当初の千人収容のスタジアムを上手につなぎ合わせ、90年後のブンデスリーガ1部昇格時には現在の2万2千人収容の立派なスタジアムになった。 佐藤さんの描いた夢は、30万本もの地元の荘川桜の木によって、沿道を行き交う人々を温かいこころでつなげる幸せだったという。この桜道の物語が、常に“未完成”でありつづけるが故に、次世代の人々に対して、“つなげる”ことの尊さをいつまでも語り継いでいくことだろう。 春をまた一つ迎えるたびに、Jリーグ百年構想の原点を思い返している。