レポート
2015/12/1(火)11:55
いざ、万博での前半90分へ【広島側プレビュー:決勝 第1戦】
180分の試合の前半90分。
ホーム&アウェイの戦いは常にそう表現される。たとえば、Jリーグヤマザキナビスコカップ(以下、ナビスコカップ)の準々決勝・準決勝、あるいはACLのベスト16。広島は何度も、同じような経験を重ねてきた。
たとえば2010年。広島はナビスコカップ準々決勝で、G大阪ともホーム&アウェイを経験している。その初戦、ホームでの戦いでは0-1と敗戦。当時の経験値や実力差を考えても、このまま広島は敗退するとみられていた。
だがアウェイ万博での第2戦、広島は素晴らしいドラマを見せつける。26分、髙萩 洋次郎(現FCソウル)の優美な浮き球のパスに鋭く反応した佐藤 寿人が左足でゴールに突き刺して先制。後半、その佐藤が右肩鎖関節脱臼の重傷を負いながらも身体を張ったポストプレーで森崎 浩司の豪快なシュートをアシスト。守備ではG大阪の攻撃をシュート3本・1点に抑え込み、広島はエースの献身的な活躍によって準決勝進出を果たしたのである。
一方で、広島は痛い逆転劇も経験している。昨年のACLラウンド16。ウェスタンシドニー(オーストラリア)と対戦した広島は初戦のホームで3-1と快勝するもアウェイで0-2。アウェイゴールの差で敗退してしまったのだ。
もちろん、初戦で勝利した方が有利に決まっている。だが、それはまだ90分の前半が終了しただけにすぎない。たとえかつてのチャンピオンシップで第1戦に勝利した方が優勝確率100%だという実績があったとしても、それは未来を何も保証しない。初戦に勝利したからといってポジティブになりすぎても、勝点をあげられなかったからといってネガティブになっても、メリットは何もない。まずは、180分の試合の前半。「そういう認識で臨みたいと思います」と佐藤も語る。
ただ、初戦をアウェイで戦うからといって、「引き分けでいいとは考えない。まずは勝利にこだわる」と語るのは、チームの戦術的支柱である森崎 和幸だ。
「G大阪と比較して、日程で自分たちが有利だとは考えていない。G大阪はACLでもナビスコカップでも厳しいスケジュールの中で結果を出しているし、非常にタフなチーム。僕らにアドバンテージはない。相手の状況とかは抜きにして、自分たちに何ができるかを考えて戦うことが大切だと思います。だからこそ、リーグ戦と同じようにまずは3ポイントを狙う。それが試合の状況によって1ポイントとなったとしても悪くはないけれど、最初から引き分け狙いではやられてしまうから」
G大阪に対する警戒心は、エース佐藤も同様だ。
「年間1位という結果は、勝利を保証してくれない。自分たちの力を出せば勝てるという自信もあるけれど、G大阪は今季のタイトル争いでどういう大会でも優勝を争ってきた。CSは彼らにとって連覇がかかるし、モチベーションは高い。それ以上の想いを、自分たちが出す必要がある」
白熱したCS初戦を横目で見ながら、広島は充実した練習をいつもどおりに行っていた。その「いつもどおり」がどれほど難しいか。それは過去、屈辱を積み重ねてきた歴史から、選手たちは十分に学んでいる。昨年の主将就任以来、初のタイトル奪取となる青山 敏弘もまた、冷静に言葉を選んだ。
「そうですね。それはようやく、わかってきました。ただ、『いつもどおり』を難しくしてしまうのは、自分たち次第。そこも経験している。ここで優勝すれば、僕個人としても、チームやクラブとしても成長できることもわかっているし、そうありたいと思っています」
これまでのレギュラーシーズンと同様の落ち着いたテンションで、まずは「前半90分」を戦うために、広島は大阪へと旅立つ。
[文:中野 和也]