コラム・レポート
2016/03/01(火)17:59
遠藤 保仁「新しいスタジアムでタイトルを決める試合がしたい」【出場クラブ 選手インタビュー:G大阪】
――昨シーズンはAFCチャンピオンズリーグ優勝を目標に掲げていました。改めてベスト4という結果をどう受け止めているのでしょうか。
「結果的に優勝には届かなかったので、もう少し力があればとは思いました。ただ、アジアのチームと対戦したことで得られた手応えもあります。アウェイで戦う難しさを感じられたことは、チームにとって非常にいい経験になったと思っています」
――開幕前に想定していた内容や結果と比較していかがですか?
「もちろん優勝を狙っていたので、届かなかったという想いが大きいです。クラブとしては久々のACLでしたし、初めて出場する選手もいました。そういったことを踏まえて、少しずつACLの戦いに慣れていきながら力を発揮できればと思っていたので、ギリギリの試合が続く中で勝ち切ることによって得られた自信はあったと思います」
――グループステージ序盤は少し苦戦しました。
「そうですね。できればグループステージは最後を“消化試合”にするくらいの勢いで突破したかったですけど、よく1位通過できたなと。選手やチームが成長していったのか、慣れたのかは分からないですけど、ACLでの勝点の積み上げ方というか、試合を経験するごとに割り切るゲームができるようにはなりましたね」
――その「割り切るゲーム」とは?
「すごくシンプルですよ。ホームでは絶対に勝って。アウェイでは最低でも勝点を持ち帰れればという判断です。優勝した広州恒大も、うちとやった時はホームで勝ってアウェイで引き分けた。決勝もアウェイの第1戦で引き分けて、ホームで勝っていますから。それが彼らの典型的な勝ちパターン。ああいう戦いができればと自分も感じましたし、それはACLを戦いながら改めて思ったことでもあります。初めてACLを経験した選手たちは、アウェイで引き分け以上の結果を残すことの重要性が分かったと思います。そう考えると、広州恒大との準決勝第1戦はアウェイで先制点を取りながら逆転負け。結果論ではありますけど、あそこで引き分けていれば勝ち上がれた可能性が高かったので、もったいないことをしたという感じはあります」
――チームとしてアウェイとホームでの戦い方が見えた中で、ACLにおける1点の重みをすごく感じたと思います。その1点を考えた時に必要になる“もぎ取る力”と“守り切る力”では、どちらが重要だと感じていますか?
「チームのスタイルによると思いますけど、僕は基本的には攻め勝つほうが好きですね。アウェイであっても0-0で引き分けるよりは3-3で引き分けたほうがいい。アウェイゴールをたくさん取ったほうが有利なので、アウェイでも勝つために点を取ること、攻めることを第一に考えたいです。ただ、実際にはそこで攻め勝つのはなかなか難しいので、もちろんバランスは必要ですが」
――改めてACLのアウェイゲームはどんなところが難しいと感じましたか?
「やっぱり勢いの違いが一番ですね。うちのホームでは全く別の顔を見せるチームが多いですから。最初の勢いのままに先制点を奪われたりすると、非常に厳しい試合になる。そういう意味では、アウェイでは特にシンプルにプレーする必要があると思います。極端に言えば、最初の15分は捨てるような感じでも悪くない。無理につないだところから奪われてカウンターを食らうのであれば、思い切り前へ蹴って相手のチャンスを少しずつ減らしていく判断でいい。それで最初の勢いを潰す。アウェイではうまくいなすことも、粘り強く戦うことも重要です。もちろんそのあとは自分たちの持ち味を出さなければいけないですけどね」
――試合の中で相手チームや選手の特徴を徐々につかんでいくということですか?
「事前に映像は見ますけど、実際にやってみないと分からない部分が多いですし、映像だけでは判断できないですから。相手の特徴を知るという意味でも最初の10分〜15分は非常に重要だと思います」
――久々にアジアのクラブと対戦してみた印象はいかがでしたか?
「やっぱり楽しかったですよ。いろいろなところに行けますし、いろいろなタイプな選手とも対戦できるので、本当に楽しみながら戦えた大会でした」
――難しさよりも楽しさのほうが大きいですか?
「僕としては難しさは十分に分かっているので、楽しみのほうが大きかったですね。上に行けば行くほど現実味が増してきますし、すごくいい緊張感で試合ができたと思います」
――自分たちが敗れた広州恒大がFIFAクラブワールドカップ(FCWC)に準決勝進出を果たし、サンフレッチェ広島はJリーグ王者として出場しました。FCWCには2008シーズンにアジア王者として出場していますが、改めて世界の舞台をどう見ましたか?
「Jリーグで優勝すれば開催国枠で出られるチャンスはありますけど、それはあくまで“おまけ”であって、やっぱりFCWCはアジアの代表として出るのが一番ですし、アジア王者の肩書きを背負って立ちたい舞台です。個人的にはFCWCは非常に重要な大会の一つだと思っていますし、何度でも出たい大会ですね」
――昨年の戦いを踏まえて、新シーズンに伸ばしたいと思っている部分はありますか?
「ここをレベルアップすれば勝てるという明確なものは一つではないので難しいですけど、もう少し攻撃の時間を増やしたいですね。それによってゴール数も増やしていきたいので」
――とはいえ、近年のG大阪は0-0のまま試合が進んでも焦れず、勝負強く勝ち切れるところが良さでもあると思います。まず守備の部分ではある程度の手応えが得られたことを受けて、その先に行きたいということですか?
「失点は最低限に抑えたいとは思いますけど、だからと言って守備的なスタイルで戦うのではなく、相手を押し込んだ状態から守備をしたいんですよね。そうなればカウンターをケアすることで失点が減りますし。そういう状態にするためにも、より攻撃の時間を長くしながら相手陣内でボールが奪えるようにしていきたいと思っています」
――そういうスタイルの実現を目指す上では、やはり遠藤選手の存在が大きいかと思います。
「後ろの選手に負担を掛けないためにも、僕らの位置は攻守両面で重要なポジションだと思っています。前の選手が楽しくプレーするためにもいい配球をしなければいけないですしね。できる限り忙しいシーズンにしたいと思います」
――安定した成績を残せるようになっていますし、G大阪はすでにチームとして熟成させていく段階に入っているのかなとも思えます。
「そうですね。昨シーズン、一昨シーズンのレベルを保ちながら、新加入選手も含めてさらに高い位置で安定した戦い方を見せたいと思っているので、今シーズンは非常に重要な年だと思っています。ACLもベスト4まで勝ち上がって自分たちに期待していた分、悔しい想いも相当強かった。そこへの気持ちは強いですし、国内のタイトルも数多く獲れるようにしていければ、より魅力のあるチームになると思います」
――2014シーズンに国内三冠を達成しましたが、昨シーズンは最後に天皇杯を獲得するまでは惜しいところでタイトルを逃す悔しい1年だったと思います。
「もちろんチャンピオンになれるのは1チームだけなのでね。最後に一つ獲れましたけど、タイトルを獲るのは非常に難しいことですし、そう簡単に取れるとは思っていないです。でも、やっぱりこれだけ結果を出していると『獲って当たり前』と思われるでしょうし、それはそれでいいプレッシャーになっていますよ。これは強いチームだからこそ背負えるものだし、そういうところで戦えることもポジティブに捉えています。もちろん自分たちももっとタイトルを獲りたいですし、一つだけでは満足はできないです。ただし、実際にはその一つを獲るためにも大変な苦労が必要なので、それを覚悟した上でより多くのタイトルを目指していきたいですね」
――今シーズンはアデミウソン、藤本 淳吾の両選手を加えて、攻撃陣がよりパワーアップしました。
「楽しみなのは間違いないですね。淳吾とは日本代表でずっと一緒にやってきましたし、アデミウソンも横浜F・マリノスで対戦したイメージどおりの選手。彼らが早い段階でフィットすれば、間違いなく面白いサッカーが展開できると思いますよ」
――さて、昨年の経験を踏まえて、今年こそはアジアの頂点を目指していると思います。絶対にレベルアップしたいと考えている点を一つだけ挙げるとしたら?
「もっと“どっしり感”のあるチームになりたいですね。試合内容が悪くても勝てるチームになりたいですし。気がついたら上にいるようなチームになっていきたいとは思います」
――その“どっしり感”を手にするために必要なものとは?
「もう、すべてですよ。ピッチで戦う選手は当然ですけど、クラブスタッフもサポーターも。ホームで戦う時に相手が『戦いづらいな』と思えば、それだけで有利に立てますから。みんなの力を合わせてそういうチームになっていきたいですね。ACLは日程が空いてしまいがちですけど、どんな状況でも変わらない戦いをすることが必要ですし、そういう意味ではシーズンを通じて安定したサッカーで勝つ試合を増やしていくようにしなければいけないですね」
――先ほど、「忙しいシーズンにしたい」と話していましたが、それを乗り越える作戦や秘訣はありますか?
「特にはないですよ。本当に何も変わっていないし、何かを変えようとも思わないので。もちろん試合が続けばコンディション的には厳しくなるんでしょうけど、選手としては試合をしているほうが楽しいですから。身体は疲れますけど、気持ちはそっちのほうがいいので。そこで勝てば勝つほどチームに安定感が生まれますし、自信も出てくる。勝ち続けるのは難しいですけど、できるだけ勝ちを増やして、そういう状態で一年間やっていければいいと思いますね。そのバランスをうまく保つことができれば、公式戦60試合を戦った昨シーズンくらい忙しくても全く問題ないです」
――改めて遠藤選手にとってACLとはどんな大会ですか?
「個人的には一番プライオリティの高い大会だと思っていますよ。アジアは一度制していますけど、非常にいいものですから。やっぱりアジアでナンバーワンになりたいし、アジアで抜群の知名度を誇るチームになっていきたい。自分の中では非常に重要な大会です」
――やはり2008年にアデレードで山口 智さんが優勝トロフィー掲げた瞬間は忘れられない?
「あの時は初めてでしたからね。いろいろなものを積み重ねてアジアの頂点に立つことは本当に難しいですし、それを乗り越えて達成するからこそ、大きな喜びがある。どの大会でもカップを掲げるのは気持ちがいいですけど、アジアのタイトルは格別です」
――今年は新しいホームスタジアムで戦うシーズンになります。
「そこは自分たちにとっても楽しみの一つですし、新しいスタジアムでいいシーズンを過ごせるようにしたい。数多くの試合を市立吹田スタジアムで戦いたいですね。こけら落としで実際にピッチに立ちましたけど、すごくいい雰囲気ですし、相手にとっては嫌なスタジアムになると思いますから」
――これまで多くのタイトルを獲得しながら、昨シーズンまでホームとして戦った万博記念競技場では一度もカップを掲げられませんでした。
「いつもタイミングが悪かったんですよ。新しいスタジアムではACLを含めて、多くのサポーターの皆さんの前でタイトルを決める試合がしたいですね」
[文:青山 知雄]