「ジーコスピリットとか、鹿島の伝統とか、正直に言うとよくわかっていない部分がある」
ヤマザキナビスコカップ準決勝でヴィッセル神戸を下した直後、鹿島アントラーズのFW金崎 夢生はそんな言葉を残した。受け取り方次第で爆弾発言にも聞こえてしまうが、それに続けた「今いる選手たちで、新しい鹿島を作り上げていくことが大事」というフレーズを聞けば、金崎の意図も見えてくる。
鹿島は今季、23年目のJリーグで17個目のタイトルを狙う。天皇杯は敗退となってしまったものの、リーグ戦とナビスコカップの双方を射程内に収めている状況だ。心理的なプレッシャーも自然と強まっていく中で、「常勝の伝統」は若い選手の多い鹿島にとって重荷にもなり得る。過去の先輩たちと比べられる難しさもある中で、「俺たちには俺たちの良さと強さがあるんだ」というメッセージを内と外の双方へ向けて発したかったのだろう。
10月17日に行われたリーグ戦、柏レイソルとのゲームも「若さ」と「新しさ」を印象付ける結末になった。1-2と一時は逆転されたものの、もはやエースと言える風格を漂わせる金崎が同点弾を叩き込むと、アディショナルタイムにはユース上がりのルーキーFW鈴木 優磨が“らしさ”を感じさせる気合いのゴールをねじ込んで、3-2と逆転勝利。スマートな勝ちっぷりでは決してないのだが、しかし「強さ」を感じさせる結末には違いなかった。
明治安田生命J1リーグ 2ndステージ、鹿島は首位の広島と勝点で並ぶ2位の好位置につける。8月の終わり、「タイトルはまず一つ獲ることで、二つ目以降が付いてくるものなんだよ」と言っていたのは鹿島の鈴木 満強化部長だった。キャリアの浅い選手が多く、勝利の美酒を知らない選手の増えた鹿島の「若さ」でリーグタイトルを獲るためには、「両方狙うというのとは少し違う。先にナビスコを獲っておくのがいいんだ」(鈴木強化部長)。
つまり、タイトルを一つ獲ることで心理的に解放されるというロジック。「(3冠を獲った)去年のガンバ大阪もそうだった。一つ目が獲れたことで、二つ目が付いてきたんだ」と、鈴木強化部長は分析してみせた。「二兎を追う者は一兎をも得ず」と、ナビスコカップに対して及び腰になるチームも少なくないが、鹿島のスタンスは「二兎を追うことで二兎を得る」というわけだ。
なるほど確かに、今の鹿島は総じて「若い」。開幕前に優勝候補に推す声が少なかったのもうなずけるし、実際に1stステージは「若さ」が出て低迷を余儀なくされた。ただ、絶妙のタイミングだった(としか思えない)監督交代から始まった快進撃で、二つのタイトルを同時に視野に収めるところまで来ている。そういえば、金崎獲得も絶妙の補強だった。どんなにピッチ上に若い選手が増えようとも、鹿島のフロントには若さと無縁の老練さがあって、それこそが「鹿島の伝統」の源泉なのだろう。