浦和駒場スタジアムに関東1部リーグの強豪・浦安を迎えた一戦は、浦和が8−2の大勝を収めた。浦安の齋藤芳行監督が試合後に「一人一人の決定力、シュートの前までの余裕というものが我々とは大きく違うというのが実感」と語った通り、スコアには両者の決定力の差というものが如実に現れる形となった。
とはいえ齋藤監督が“決定力”というサッカーにおいては最終的なファクターである部分を敗因としてあえて口にしたことに象徴される通り、この日の浦安は内容面では浦和に引けを取らないプレーを見せていた。「浦和の試合を3試合ほど分析しましたが、中盤のボランチ、うちの村田翔と矢部雅明のところではボールを持てるなと思いました。真ん中でボールを保持できるとは思っていたので、そこに相手のディフェンスを集めてからサイドに展開するのが狙いでした」と、明確なプランを持って試合に臨んだ浦安は、狙い通り再三にわたって浦和のサイドを攻略してみせる。決めるべき場面でシュートを決めていれば、スコアはより接近したものになっていたに違いない。
もちろん、サッカーというスポーツでは最後のシュートの部分こそが最も難解で、この“決定力”にこそ最も実力差が現れる。「決めるべき場面で決めていれば……」という具合に試合を振り返ること自体ナンセンスであるかもしれない。ただ、それでも小気味のいいサッカーで一時は同点に追いつき、試合終了間際にはアウェイ席を埋めたファンの前でCKから一矢を報いた浦安のプレーにある種の清々しさを感じたのも事実だ。
一方、1カ月半ぶりの公式戦となった浦和もまずまずの仕上がりをみせた。彼らが大勝できたのは、なにも前述の決定力の差によるだけのものではない。チームのトップスコアラーである原口元気がヘルタ・ベルリンに移籍し、新たな攻撃の形を模索する必要に迫られている浦和だが、この日は李忠成、興梠慎三、柏木陽介の新しい攻撃トリオが息の合ったコンビネーションを披露。また、左右両サイドの宇賀神友弥と梅崎司、さらにはボランチの阿部勇樹、センターバックの森脇良太にも得点が生まれるなど、どこからでもゴールが奪える豊富なタレントを見せつけた。
また、以前の浦和は2列目の原口、サイドの宇賀神、バックラインの槙野智章と左サイドに攻撃的なタレントが集中していたため、このエリアでは個性の強い選手同士がノッキングを起こし、さらには攻撃全体も左に偏る傾向にあったが、原口がいなくなったことでかえって個々の役割が明確になり、左右のバランスの課題も解消されつつあるように見えた。もちろん、このメンバーでJ1のチームを相手にどの程度プレーできるかは未知数だが、原口抜きでも攻撃力が大幅にダウンするということないだろう。
この試合を要約すれば次のようなことになる。浦和は1カ月半ぶりの公式戦で、消耗の激しい蒸し暑い気候のなか、勇敢に立ち向かってくる下部リーグの好チームを相手に手を焼きながらも、最終的には実力の差を見せつけ大勝したと――。この日行われた2回戦で鹿島、仙台、神戸が姿を消したことを思えば、満足してもいい結果だ。特に浦和は毎年天皇杯の初戦で苦戦する傾向にある。そのなかできちんと白星を収めたどころか、8点という望外なスコアも手にしたのだから。
ただそんな思いが吹き飛んだのはミックスゾーンで柏木が話す姿を見たときだ。記者に囲まれると彼は堰を切ったように話し始めた。彼は明らかに憤っていた。「個人的にはイライラしてしまった。なんでみんな慌ててるんだろうって。なにかを自分が変えなければいけないと思って、前からボールを奪いに行った」と、一見すると意思統一を欠いた今日のチームの出来に対して不満を述べたようにも聞こえたが、怒りはむしろ自分自身に向けられているようだった。
「自分はスイッチを入れる人間にならなければならないと思っています」と話した柏木。もともとサッカーに対しては人一倍ストイックな選手だが、この日の彼の目は焦りの色を宿しているように見えた。チームでの連動を訴える柏木の話は、ほかの選手たちがぽつりぽつりとミックスゾーンを去り始めてからも止まらず「代表もそうだけど、個が一番に来ることはない」と、話はワールドカップにもおよんだ。その言葉にはワールドカップで日本代表に貢献できなかった悔しさもにじんでいた。
この日の試合は、J1のチームにとってはワールドカップでの中断期間後、最初の試合に当たった。一つ一つのプレーに対して妥協することをよしとしない柏木の姿を見て改めて感じたことは、これから行われる日本サッカーのすべての試合は、ブラジルワールドカップでの2敗1分の現実と無関係には存在しえないということだ。どんなに小さな試合でも、重要性を帯びていないものは一つもない。J1が本格的に再開するのは来週だが、新たな挑戦に向けてすでに一歩を踏み出している選手たちもいる――そんなことを感じた、天皇杯の2回戦だった。
以上
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