決勝トーナメント進出に大きく前進する勝利の立役者はもちろん決勝ゴールの田中マルクス闘莉王だが、個人的には中盤で攻守に躍動した矢田旭を推したいところ。彼が執った選択と周囲との連係、そしてチームとして統制のとれた判断力が、この日の名古屋の勝因だったからだ。それはそのまま、ヤマザキナビスコカップでの3連勝の勝因にもつながってくる。
試合は名古屋が守備に追われる展開から始まった。柏は3−4−3の布陣でスタートし、立ち上がりから左サイドが好連係を見せる。ウイングの田中順也とサイドハーフの橋本和、そしてボランチの大谷秀和の3名が流動的に絡み合い、名古屋の右サイドを次々と陥れた。「あれはいつも通り」と田中は平然と語ったが、見事なトライアングルのパス交換によるダイナミックな攻撃に、序盤の名古屋は防戦一方とならざるを得なかった。
だが、そこで矢田を含めた名古屋の対応が素早く、また的確だった。柏の左サイドのポジションチェンジが激しく流動的と見るや、無理にマークを受け渡すことをやめ、1対1の応対に切り替えた。より前線に位置する田中には矢野貴章が、後方から上がってくる橋本には矢田が最後まで付ききる。「自分の判断もそうだし、トゥさん(闘莉王)も言われた。みんなも割り切っていけばいい雰囲気だった」とは矢田の言。コンビネーションプレーに組織で対応できないならば、個人の勝負に持ち込む。ピッチ内の判断は正しかった。逆サイドでも名古屋は同様の対応を見せ、時に最終ラインは6バックの形になることもあったが、時間経過とともに柏の左サイドの躍動感は、立ち上がりに比べ減退していった。30分には田中の直接FKがバーを叩き、42分には右サイドからのクロスを橋本が頭で合わせたが、どちらも得点には結びつかず。それからは逆に名古屋が攻勢に転じ、小川佳純がボールの受け手として前線をかき回し、矢田は横幅広くパスの中継役となり、両サイドハーフが攻撃を牽引。特に矢田は玉田圭司や永井謙佑ら2トップとの感覚も共有できており、右から中央のゾーンで存在感を見せた。
防戦から持ち直した名古屋と、勢いを失いつつあった柏。両者の関係は、後半開始から柏が失速したことによりさらに明確になる。何しろ後半で柏が最初にゴール前での可能性を見せたのは、76分のFKを待たねばならなかったからだ。その間、69分に右サイドの高山薫、75分には橋本と両サイドの選手を入れかえたネルシーニョ監督だったが、特効薬とはならず「攻撃の質を落としてしまった」と落胆した。その後は80分にスルーパスに抜け出したレアンドロが決定機を迎えたが、これは名古屋の守護神・楢崎正剛の好セーブで得点はならず。後半の柏はとにかく展開が落ち着かなかった。
逆に名古屋は後半になっても勢いを失うことなく、むしろ加速した。50分には永井がDFとの接触で負傷し交代するアクシデントもあったが、「足に力が入らなくなった。チームが勢いづいていたので動けないのはマズいと思って」と永井がチーム優先の判断を見せたことで流れは変わらず。65分には玉田もDFとの接触で負傷交代する不運も重なったが、代わりに入った田鍋陵太がサイドハーフの位置に入ったことで、トップ下で新たな可能性が発見されることになる。矢田である。これまでもサイドで得意のドリブル突破など高い技術を見せていたが、トップ下ではパスの収まりの良さとキープ力、そして切れ味鋭いスルーパスで攻撃の起点を一手に担った。つまりは玉田の役割を受け継いだ格好なのだが、矢田はもう少し柔軟な印象だ。育成組織の先輩である左サイドバックの本多勇喜が「旭は体幹が強い。DFに当てられてもグニャっとかわしていく」と矢田のプレーを評していたが、まさにそういったプレーでDFのチャージをいなし、バイタルエリアから攻撃を創造した。
決勝ゴールも矢田が起点となった。85分、ショートカウンターからの小川のスルーパスをペナルティーエリア内で受けると、シュートは防がれたが「ズミさんしか見えてなかったです」と、すぐさま中央の小川へ折り返す。小川のシュートはうまく足にヒットしなかったが、「DFを避けたら結果的にいいところへ行ってくれました」とボールは転々と闘莉王の下へ。これを既に前半で累積で3枚目のイエローカードをもらっており、グループ最終節の欠場が決まっていたキャプテンが冷静に、しかし魂を込めて叩き込んで決勝点。アディショナルタイムは4分と長めだったが、課題の時間帯も無難に守りきり、ホームでの連勝をもぎ取った。
柏はなぜ失速したのか。その理由は指揮官と主将の考えを総合すると輪郭が見えてくる。ネルシーニョ監督は「我々がボールを奪った後に選択するところが狭かったり、相手が準備しているところに行くことから始まっていた」と守備から攻撃に移る際の判断力を挙げ、大谷は「もう少し長い距離を走る選手であったり、相手の嫌がる動きができる選手も必要なのかなと思いますし、相手の動ける範囲内で動いてボールを引き出す動きというのがなかったりもする」と、攻撃の中での動きの質に答えを求めた。共通するのは状況判断で、前半に見せた左サイドの崩しのような好判断の積み重ねがピッチ全体で、攻守にわたって繰り返せなかったことが敗因と言えるだろう。この日の右サイドなどは田中の言葉を借りるまでもなく、こと攻撃においては存在感が希薄だった。
そして名古屋である。冒頭にも書いたように、矢田が出色の出来だった。前半で相手の最大の武器を周囲との意思疎通で抑え込み、後半はトップ下として玉田不在の前線の起点を担った。試合後には珍しく、楢崎正剛からも称賛の声が上がっている。
「良い動きしましたね。だいぶ試合の感覚をつかんできたんじゃないかと思います。だいぶ攻撃面で引っ張ってやれている。ちょっと他とタイプが違うし、ランニングだけでなくて技術で。頼もしいです」
この日負傷交代した玉田と永井は次節の出場は微妙。だが彼らに代わる前線の中心人物として、矢田は期待させるだけのプレーを見せてくれた。
他会場では浦和が甲府に勝利し予選Bグループの勝ち抜けを確定させた。Bグループの残る1枠は、可能性として2位甲府と3位名古屋、4位柏の3チームが争う。最終節に試合がない甲府は名古屋が負け柏が引き分け以下の場合という他力本願の状況。柏は勝っても名古屋の結果次第となる。名古屋は柏の結果によっては引き分けでも決勝トーナメント進出が決まるが、柏と徳島の力関係を考えると、勝利が条件と思っておいた方がいい。玉田、永井、そして闘莉王を欠く布陣で浦和に挑む構図はなかなかに厳しいが、中断前最後の公式戦と言う意味でも、勝ってスッキリと小休止に入りたいところ。中3日で乗り込むアウェイ埼玉で、覚醒した才能と成長したチームがどれだけのプレーを見せてくれるか、楽しみになってきた。
以上
2014.05.29 Reported by 今井雄一朗
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