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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【J1:第33節 大宮 vs 磐田】レポート:「有終の美」とはいえない、それでも価値ある1勝。大宮がホーム最終戦で磐田を降す(13.12.01)

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タイムアップの瞬間、橋本早十は両手を広げてガッツポーズで喜びを表し、歩み寄ってきた金澤慎と抱き合った。2004年に駒澤大学から加入した橋本と、2002年にユースから昇格した金澤。今や大宮のJ2時代を知る選手はこの2人のみであり、それだけに2人の友情には特別なものがある。
今季2度目の8連敗の長いトンネルを抜けた安堵と喜び、そして今季限りでチームを去る背番号18への惜別の情がスタジアムを包む。ホーム最終戦、大宮は3-0の勝利と、大宮一筋に10年間プレーし続けたベテランとピッチ上で別れを告げる、最高の結果を得た。

開始早々から、それぞれがねらい通りの形でチャンスを作る。4分に磐田が左サイドから速いボールを中央に入れてコンビネーションで崩し、山田大記のクロスに金園英学がボレーを合わせる。直後に大宮は右サイドで裏を取ったズラタンのクロスにチョ ヨンチョルが飛び込み、八田直樹が顔面ブロックしたボールから再び長谷川悠がシュートを放った。

磐田のねらいは、大宮のバイタルエリアにあった。金園が大宮の最終ラインを引っ張ってボランチとの間にスペースを作り、そこにボールを入れて松浦拓弥や山田の個人技で攻略を試みる。大宮のねらいは、磐田のサイドバックの裏にあった。練習で準備してきた通り、シンプルに磐田のサイドバックの裏にボールを送り、クロスにFWとサイドハーフが飛び込む攻めを徹底した。
自然、「ボールを握る時間は我々の方があるだろう」と磐田・関塚隆監督が予想した通りの形になったが、大宮も「リスクを冒さずに(長いボールを)蹴ってセカンドにプレッシャーをかけていく」(渡邉大剛)、ある程度割り切ったやり方でカウンターをねらう。磐田は手数をかけ、確かにバイタルエリアに持ち込む場面を何度も作ったが、そこから崩せずフィニッシュはミドルシュートに終始した。そして36分、高橋祥平の縦パスから見事なターンで左タッチライン際を抜け出したズラタンのクロスを長谷川が競り、右サイドに流れたボールを拾った渡部大輔が再びクロスを送ると、動き直した長谷川が右足を合わせて先制ゴールを奪った。

後半も同じ構図で試合は進む。磐田は松浦に代えて山崎亮平を投入すると、63分、65分と連続してその山崎が決定機を迎えるが決めきれない。逆に67分、大宮は左コーナーキックから菊地光将がニアで合わせ、クリアミスを長谷川が頭で落とすと青木拓矢がボレーで流し込んで追加点。その直後、磐田はペナルティエリア内右で大宮最終ラインの裏を取り、小林裕紀のクロスに山崎亮平が頭で合わせるが、この日プロ入り6年目にして念願のリーグ戦初出場を果たしたGK清水慶記のビッグセーブに阻まれた。

ここから大宮には厳しい時間帯となった。自陣に押し込まれ、はね返すのみ。ボールが上手くつながればカウンターのチャンスになる場面もあったが、ほとんどペナルティエリアに釘付けとなった。左から右から磐田のクロスにさらされている状況で、もしこの時間に前田遼一が投入されていたら、磐田はその攻勢を得点に結びつけることができたかもしれなかった。
しかし磐田が勝負をかけるのは遅すぎた。前田がその姿をピッチ上に現したのは、82分に大宮が下平匠のフリーキックから長谷川がヘディングシュートで3点目を奪った後のことだった。決定的な3点目で磐田の選手の気持ちは既に切れているように見え、逆に集中して身体を張る大宮の守備に、もはやチャンスらしいチャンスを作ることはできなかった。

そして大宮は84分、橋本をピッチに送り出す。青木拓矢のボレーシュートを導いたクロス、ヨンチョルのクロスへの飛び込み、裏への飛び出しからペナルティエリア内でボールをキープしヨンチョルのシュートをアシストなど、確かな技術とアイディアで見せ場は作るがゴールに至らなかったのも、ある意味、彼らしかった気がする。

磐田は大宮の12本を上回る17本のシュートを放ちながら、ゴールネットを揺らすことができなかった。5連敗、それもここ4試合は完封負けを喫し、磐田ゴール裏からはブーイングが起きた。もはや課題を修正してどうこうという段階ではないが、それでも最終節は勝利で終えなければならない。勝利の喜びがいかにサポーターの心を癒し、チームを一つにするか、それは8連敗の末に勝利をつかんだ大宮が目の前で示している。もちろんここまで失望を与えた以上、「有終の美」というわけにはいかないだろう。大宮も試合後のセレモニーでは、鈴木茂社長が挨拶を述べる間ずっと激しいブーイングを浴び、辛辣な言葉を連ねた横段幕がゴール裏に掲げられた。それでも、この試合に勝ったこと、それもサポーターが待ち望んでいた橋本に出番を与えての勝利は、殺伐とした気持ちのままシーズンを終える窮地を救ってくれた。

ゴール裏へ歩いていくときも、背番号18と23は肩を並べていた。「勝って終われたね」(金澤)、「これから頑張れよ」(橋本)、そんな言葉が交わされていた。「自分はチームを去るけど、あいつにはミスターアルディージャとして頑張っていってほしい」という橋本の思いは言葉にならず、「いろんな思い出が頭をめぐって、思わず泣いてしまった」。その肩を金澤が抱え、サポーターの前に立つと、笑顔で2人は一礼した。去る者と残る者それぞれの思い、首位をひた走った歓喜の記憶も、負け続けた悔しさも飲み込んで、J1で9年目の大宮ホーム最終戦は終わった。

以上

2013.12.01 Reported by 芥川和久
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