「サッカーの神様は甘くないですね」
中澤佑二がしみじみと言った。サッカーの神様の気まぐれだろうか。前節は浦和と広島が敗れ、横浜FMに大観衆の前で優勝できる最高のチャンスを与えておきながら、今節は試練を与え、最後の最後までリーグ戦の優勝争いを楽しむことを選択した。無論、実際にこの結果を招いたのは神様の仕業ではない。6万2632人で埋まった日産スタジアムのピッチで繰り広げられた90分間のドラマに、その要素が詰まっている。
横浜FMが沈黙した要素の一つとして考えられたのは、優勝&大観衆のプレッシャー。その重圧のためか「いつものプレーができていない選手が何人かいた」(中村俊輔)そうだが、試合に与えた影響はそこまでではなかったように思う。むしろ、しっくりくるのは榎本哲也が言った短い言葉、「新潟は強い」である。
完全アウェイ戦に臨んだ新潟だったが、動揺を見せるどころか、逆に「優勝を決めさせるか」という反骨心に火がつき、集中して自分たちのスタイルを遂行。序盤から走力全開で、最前線からの猛烈なプレスで横浜FMに攻撃するための時間とスペースを与えない。まるで前回、第7節での対戦時のビデオを見ているかのような圧巻のプレスだった。
ただし、攻撃は前回とはいい意味で違った。前線にくさびを入れて、FWが丁寧に落として、前を向いた2列目の選手が受けてサイドに展開。そしてサイドで2対1の状況を作り、ワンツー、ドリブルで切り崩しにかかる。普段の練習がイメージできるようなシンプルで分かりやすい戦法だが、洗練されコレクティブだからこそワンタッチプレーが多く、横浜FMの守備陣でも容易に飛び込めず、なかなかボールを奪えない。また、サイドバックのオーバーラップのタイミングも秀逸で、何度も両サイドをえぐった。「トレーニングでできないことはゲームでもできない」。柳下正明監督のモットーが、そのままピッチ上で具現化されたことが、先の「新潟は強い」に結びつく。
横浜FMは劣勢ながら、危険察知能力の高いボランチ、富澤清太郎の適切かつハードなプレスバックと、最終ラインの“強さ”でしのぎ、前半は決定機を与えない。
後半に入ると、耐えていた横浜FMが徐々に主導権を握り始める。それは新潟のプレスの効きが弱まってきたからだろう。齋藤学の個人技主体に押し込み始めると、相乗効果で新潟の守備ラインも下がり出す。それで中盤にスペースができると、セカンドボールも前半とは逆に横浜FMへの方へ転がることが多くなった。
しかし、サッカーには落とし穴がある。72分、川又堅碁が相手DFのクリアミスに即反応し、ボレーをネット上部に豪快に蹴り込み先制した。それを受けて横浜FMのベンチは藤田祥史を投入し、布陣を2トップに。藤田が右から左に流れ裏に抜けるフリーランで、より一層攻撃に厚みを持たせた。
ただし、「今までの相手で一番守備が堅かった」(中村)新潟ディフェンスが粘る。そして90+3分に鈴木武蔵がカウンターから加点し、勝負あり。新潟が4連勝を飾り、してやったり。柳下監督は会見でこう締めくくった。「F・マリノスのサポーターには嫌われるかもしれないが、Jリーグにとっては良かったのではないかと思います」。
以上
2013.12.01 Reported by 小林智明(インサイド)
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