もしかしたら、責任感はパウリーニョにも引けを取らないのかもしれない。0‐3で大敗した前節のG大阪戦後、闘将を欠いたチームの中で、どんな役割を担おうと考えているのか。そんな質問がクリスティアーノに投げかけられた。背番号11は至極当然のことを口にした。
「パウリーニョは大切な選手だし、抜けた穴は大きい。でも、特別なことをする必要はないと思う。彼のために走ること、個々が自分の仕事を全うすることが大切になる」
福岡戦では本職のサイドではなく、これまで背番号7が務めていたボランチに収まった。不慣れなポジションゆえに不必要な軽いプレーも散見されたが、そのマイナスを持ち前の運動量、勤勉さ、そして推進力でプラスに変換。中盤の底から試合を組み立て、チャ ヨンファンとともにタイトな守備で福岡の進撃を阻んだ。惜しみなくチームのために走り、課せられたタスクを粛々とこなした。
そのハードワークが報われる瞬間が訪れた。71分にカウンターが発動すると、ピッチ中央を猛然と駆け上がった。左サイドの近藤祐介から送り届けられたパスを、GK神山竜一の鼻先でちょこんと浮かしたオシャレなシュートはゴールラインを越えた。誰よりも献身的にピッチを駆けた。だからこそ、貴重な追加点にしてクラブ通算200ゴールの栄誉を手にできたのだ。あのゴールは神様が信仰心の厚いクリスティアーノにもたらした、必然のプレゼントだった。
「今日は最初から行こうという話をしていた」(近藤)
前節の不甲斐ない敗戦は、立ち上がりの拙さが要因だった。それだけに、序盤の入り方が重要視されたが、開始30秒で菊岡拓朗が先制パンチを放てば、7分には廣瀬浩二がGK強襲のシュートを撃ち込んだ。畳み掛けることで主導権を握った。その後、城後寿に立て続けにシュートを浴びるなど嫌なムードが漂い始めたが、24分に鮮やかな連携から栃木が先手を取る。クリスティアーノのスルーパスを廣瀬がギャップで受け、いったん縦に突っ掛けてから切り返して上げたクロスに杉本真が頭から飛び込んでネットを揺らした。
「完璧なボールに対して完璧に入ってくれたので最高だった」。
廣瀬が自画自賛するのも頷ける、4‐3‐3の弱点を突いた見事な一撃だった。
ビハインドを負った福岡はプレスの圧力を強める。ところが、前線から追い込みをかけたものの、上手く栃木にボールを動かされてはいなされ、1ボランチの両脇で受けられてしまうなど、思うように網にかけることはできなかった。38分、三島勇太の反転シュートも枠を捕え切れず。栃木のブロックに対して攻めあぐねてしまう。
後半の頭に坂田大輔、石津大介の“Wダイスケ“を投入したマリヤン プシュニク監督。前線が活性化され、流動的な動きで栃木をかく乱することに成功するが、水際で身を挺した栃木の守備組織を打ち破れず。中をこじ開けられないことでサイドに活路を見出すが、こちらもクロスをほぼ完璧に弾き返されてしまう。福岡の勢い、自らのボールロストで劣勢に回った栃木だったが、前掛かりの相手に対して最も有効なカウンターで勝負を決する2点目を手に入れた。まさに、理想的な勝ちパターンで連敗阻止に成功した。
前節の熊本戦で拾った勝点1を、今節に活かしきれなかった福岡。後半に2枚替えを行ってからは形勢を逆転できただけに、「自分がもっと精度のいいシュートやパスの使い分けができていれば、違う展開になっていたのかなと思う」と石津が振り返ったように、あの時間帯に決定的な場面を作れなかったことが悔やまれる。ただ、敗れはしたものの、フレッシュな金森健志と三島の物怖じしないプレーは目を引いた。今後の福岡にとってスペースへ飛び出す動きは大きな武器になりそうな気配が感じ取れた。身近には坂田という素晴らしい教材がいる。吸収できるものは全て吸収し、心身両面を伸ばしていってほしい。
「パウリーニョがいなくても自分達のやるべきことを選手一人ひとりが考えてやれれば、チームとして戦えると思う。パウリーニョの代わりはできないけど、他の選手にも良さはある。それを出せればチームとして強くなるはず」
まさに杉本の言うとおりである。ボランチが4人も欠ける緊急事態は、もうしばらく続くが、福岡戦のように個々がそれぞれの役割に徹し、組織として戦えれば、上位が相手でも怯むことはないし、伍して戦えるはずだ。それだけの守備戦術を栃木は有している。ハードワーク+αの力を継続して発揮できれば、この難局も乗り切れるに違いない。
次節もホームゲームである。2位・神戸を迎え撃つ一戦でも受けに回ることなく立ち向かい、また凱歌「県民の歌」を歌う痺れる瞬間を味わおう。
以上
2013.06.09 Reported by 大塚秀毅
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