攻撃の質と迫力で上回っていたのは東京V。客観的な視点で見れば、やはりそうだろう。高原直泰を効果的なポイントに使ったショートパスでの崩しは変化に富んで多彩であったし、徳島の寄せが甘いと見るや鈴木惇や飯尾一慶が強烈なミドルショットを発射。スタジアムを大きくどよめかせるシーンを作り出した。さらに、後半途中から送り込まれた前田直輝と中島翔哉のドリブルが徳島を恐怖に陥れていたのは間違いない。事実、鋭い方向転換と素晴らしいボディバランスで狭いスペースを抜ける彼らの突破は何度も徳島の守備網を完全に切り裂き、ペナルティエリア内でビッグチャンスを生み出していたのである。
ただ、このゲームで勝点3を掴んだのは徳島であった。そして徳島がその結果を引き寄せられた最大の理由は、東京Vになかった展開スピードの変化を後半上手く挟み込んだこと─。その変化とは、縦パスを連続させたシンプルかつ前へ早いボールの運びで、実際それが集中したパフォーマンスを最後まで維持させる先制点に結び付いたのだ。
徳島の攻めも構成の主体は丁寧なショートパスだったと言えよう。ボランチ・濱田武が司令塔となってボールを散らし、その配球を受けた柴崎晃誠や鈴木達也らが津田知宏と大崎淳矢を使って丁寧な崩しを試みていた。しかし、そうした仕掛けはなかなか決定機へ繋がらない。20分に一度バイタルエリアでの細かいパス交換から可能性を感じさせるシーンを作ったが、前半はそれ以外堅守を誇る東京Vのブロックを慌てさせるまでには至らなかったのが実情であった。
そこで、折り返して迎えた62分、徳島はそれまでの攻撃に一転変化を付ける。自陣でボールを奪った千代反田充がハーフウェイライン付近でフリーになっていた柴崎へ縦に預けると、その柴崎も囲まれたプレスを剥がす見事なターンから間髪入れず最前線の津田へ長い縦パス。東京Vにブロック形成の時間を与えない早い攻め入りをしたのである。ネットを揺らす最後の仕上げとなった鈴木の精度高いクロスとキム ジョンミンの勇敢な飛び込みも評価されるところだが、やはりここでもぎ取った先制点は2本続いた縦への進みが何より効いたと言うべきであろう。
その後、徳島は同点を狙う東京Vの猛攻を受けるも、先手を奪ったことで選手たちは集中と落ち着きを一瞬も欠くことなく継続。運も味方に付けた(クロスバーに2度助けられた)我慢強い守りでピンチを凌ぎ、83分の2点目でリードを広げると、終了間際に1点こそ返されたがそこで踏み止まって価値ある白星を手中に収めた。
だが、この勝利にも選手たちは満足していない。斉藤大介が前半に連携不足から起こったアレックスのバックパスミスを振り返り「不用意なミスはチームとして絶対にしてはならない」と語れば、ボランチ・青山隼も「前半は攻撃の途中でミスが出てしまい、(前へ行きかけても)また攻められることが多かった」とコメント。組織全体のさらなる引き締めが必要であることを反省として挙げていた。開幕直後の3連勝から後まだ連勝がない徳島としては、課題を見過ごさないそうした姿勢でいっそう組織力を高めて次節その乗り切れない状況に終止符を打ち、6月の浮上を死に物狂いで目指すということだ。
対して敗れた東京Vについてだが、冒頭のように攻撃の内容は非常に優れたものであった。幾つかの決定機を逃してしまったことを除けば、自分たちの持つ高い力を存分に見せたと言っても過言ではないだろう。とは言え、チームとしては序盤からいいテンポを出せていたからだろう、少々細かなパス交換にこだわり過ぎたようにも思われる。それを示すように、繰り出す攻撃はかなりの好機を作っていたものの、そのほぼ全てが徳島の構えた守備へ仕掛けたものであったために最後の最後で弾き返されていた。また、失った2失点目もそのことを物語っていると言えるのではないか。手詰まりになって後方へボールを戻したところでも細かくやろうとしてミスを発生させ、徳島のキムに独走を許す結果になってしまったのだから。
だが、繰り返しにはなるが、披露した内容は見事なものであった。それだけに気持ちを切り替え、プレーのディテールにあと少しの精度をプラス出来たなら、東京Vは昇格へ近付けるだけの集団となるに違いない。今後の進化が大いに注目される。
以上
2013.05.27 Reported by 松下英樹
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