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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【J1:第3節 広島 vs 鹿島】レポート:興奮とスリルが充満したスコアレスドロー。広島、鹿島、両雄譲らず。(13.03.18)

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まさかの光景。広島でもっとも信頼されている選手の一人である水本裕貴の左足で蹴られたボールは、驚くほど緩かった。

ボテ、ボテッ。

後に本人も認めた、水本自身のミスである。転がったボール。絶対に拾わなければ。紫の名ストッパーは走った。だが、先に触ったのは野沢拓也だ。大迫勇也も走ってきた。フリーだ。水本も、カバーに走った千葉和彦も、つられた。鹿島、いや日本屈指のテクニシャンは落ち着いて、切り返す。その動きに千葉は尻餅をつき、水本もブロックに動けない。背番号35、完全にフリー。

3と5、足せば2年前まで彼が鹿島で背負っていた番号=8になる。史上初の3連覇に大きく貢献した時につけていた栄光の番号。小笠原満男から受け継いだ、鹿島にとっては10番と並び称されるべき偉大な8番。「正直に言えば、8番を(もう一度)つけたかった」と復帰時に語っていた想いは、35という数字について考えればわかる。「(今回の移籍が)サポーターの皆さんの中には賛否両論があるのは当然のこと」。野沢の鹿島復帰時のコメントから察しても、一日も早く、結果が欲しいはずだ。そして、そのためのビッグチャンスが、目の前に転がってきた。時間は90+5分。ゴールはそのまま、鹿島の勝利につながる。

彼の前に立ちはだかるのは、西川周作のみ。現役日本代表GKの背中に輝く「1番」は、かつて前川和也・下田崇というGK王国・広島を牽引してきた偉大な守護神が背負ってきた歴史ある番号。プライドがある。1番は、動かない。両足を地面につけ、35番の前に立ち続ける。男対男、誇り対プライド、意地対執念。

対面した瞬間から左足シュートまで、時間にして、コンマ数秒。ただそれが、野沢の後悔。「早く、シュートを打ち過ぎた」それを、西川周作の存在感の勝利と断じるのは、あまりに浅薄だろう。瞬きほどのわずかの時間、数メートルの距離で対面した中でかわされた無言の駆け引き。日本最高峰のテクニシャン対日本最高のシュート・ストッパー。2人の対決には、素人が介在しえない、想像もつかない複雑なやりとりが内包していた。

西川の手に触れて、こぼれたボール。だが、勝負はそこで終わらない。水本が必死に走る。蹴り出せば試合終了のはずだ。だが、鹿島も執念。遠藤康が走り、ボールをキープ。西大伍とのパス交換で前を向いた。左足に破壊力を秘めたアタッカーには、ミドルもある。全速で戻った広島の選手たち。9人でブロックをつくり、シュートコースを切る。それでも、遠藤は前に出て、左足を振った。鋭い唸り。ブロックを引き裂く。だが、広島の執念は、遠藤のシュートコースを守護神に予測させていた。

キャッチ。絶対にこぼさない。お腹で抱える。1番の執念。ホイッスルが鳴る。終わった。森崎和幸が、青山敏弘が、大迫が、野沢が。ガックリと座り込んだ。胸に去来するのは、疲労感か、それともやりきったことへの達成感か。勝てなかった悔しさか、1ポイントを確保した安堵か。スコアレスドロー。だが、「サッカーの素晴らしさが凝縮された試合だった」と、トニーニョ セレーゾ監督(鹿島)は紅潮した表情で言う。それほどの興奮とスリルに満ちた闘いだった。

前半は鹿島ペース。左サイドでジュニーニョと中田浩二が攻撃の起点となり、クロスボールから何度も広島のゴール前を脅かした。さらに高い位置からのプレスでボールを奪い、オフサイドになったとはいえ、ダヴィの「幻のゴール」も導いた。

だが50分、それまで押し込まれていた広島の右サイド・石川大徳が中田との1対1を制して突破。このプレーをきっかけに、広島の若者は積極性を取り戻した。彼の強気がチームに勢いをもたらし、広島は主導権を握り返す。千葉がボールを持ち上がってゴール前まで飛び込み、山岸智が左サイドを制圧。石原直樹が決定機をつくり、61分には塩谷司が森崎浩司のCKのこぼれを押し込んだ。ボールはゴールに吸い込まれた。だが、千葉がオフサイドの位置でプレーに関与したと判定。広島も鹿島も、共に幻のゴールが生まれる珍しい闘いだ。

球際での激しい闘い。何人もの選手がピッチの上に転び、倒れた。それでも全員が、チームとしての規律を守る中でアイディアを繰り出し、最後まで勝つために奮戦した。森保一監督も「スコアは0-0だったが、内容の濃い試合をお見せできた」と言い切った。勝てなかった悔しさと、素晴らしい闘いを見せた誇らしさと。両監督には、複雑な表情の中にも充実感が見てとれた。

ACLから中3日と厳しい日程の中で見せた後半のリズミカルな攻撃は、広島の希望。苦しみながらも全員で守り、わずかな綻びを鋭くついた巧妙さは、鹿島の伝統。両チームの良さが充満した、濃密な濃密な90+9分間だった。

以上

2013.03.18 Reported by 中野和也
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