5月20日(土) 2006 J2リーグ戦 第17節
湘南 1 - 3 水戸 (14:04/平塚/3,504人)
得点者:'3 小椋祥平(水戸)、'34 金基洙(水戸)、'73 アンデルソン(水戸)、'75 加藤望(湘南)
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「してやったりでしたね」取り巻く記者の言葉に、指揮官は頷き、相好を崩した。
前田監督が今日の試合のプランを最終的に決めたのは、ミーティングも終えたアップの最中だったという。普段はボランチを担う権東勇介を呼び出し、耳打ちした。「前でニヴァウドをマークしろ」。策略はつまりこうだ。1トップのアンデルソンの下に、椎原拓也と権東を2シャドーとして並べ、アンデルソンに田村雄三を、椎原に外池大亮ら田村の逆側を任せ、そして権東にはニヴァウドのケアを委ねる。前線のてこ入れはその実、攻撃ではなく守備を考慮したうえでの采配だったわけである。
指揮官の中では、特にニヴァウドに対する警戒感が強い。「彼が山形にいたころから、配球の巧さと展開力に目を付けていた。実際、湘南もニヴァウドがいい形で前を向くとチャンスが広がっている」。一方で中盤の底には小椋祥平を1ボランチで据え、加藤望や佐藤悠介、坂本紘司など中に侵入してくる相手に眼を光らせた。
さらに前田監督は、朝から強く吹く風を読んでいた。「平塚競技場は風が回るため、いま吹いている風向きが後半どうなるかはわからない。それならばまずは風上をとり、先手必勝を狙った。先制点が大きかったと思う」立ち上がりからプレスを強める水戸は3分、右サイドから中央へクロスを入れる。DFを背負いながらアンデルソンが落とすと、押し上げた小椋のロングシュートは風の力も借り、一直線にゴール左隅へと突き刺さった。「遠目から打っていこうと思っていた」ゴール前の門番による、指揮官にとっても企みどおりの先制弾だった。
早い段階でビハインドを背負った湘南は、この日ボランチに抜擢された坂本を経由してサイドチェンジを図るなど、ビルドアップを目指す。しかし、時にフィニッシュまで持ち込むものの、枠を捉えることはできない。それ以前に、水戸のディフェンスが効いていた。権東によるニヴァウドへのプレッシャーは湘南の最終ラインからパスコースを奪い、起点を捥ぎ取った。加えて前線の横山聡やファビオといったポストプレイヤーに対するプレスも厳しく、楔がことごとく摘み取られてしまう。水戸の高い守備意識は、ひとりが抑えている間に2人、3人と寄せていくプレーに如実に表れていた。
湘南が攻め倦む一方で、前田監督が目論んだ高い位置からのディフェンスは、水戸のさらなる攻撃の呼び水となる。リスタートを含め、奪った直後の動き出しが鋭いからだ。34分には中盤でボールを奪った金基洙がドリブルで持ち込み2対2を演出、まだ距離を残しながらシュートを放ち追加点をあげた。「奪った後で走り負けない」と確認して臨んだイレブンが、攻撃的な守備から主導権を握り、2点リードで前半を折り返した。
後半、湘南は立ち上がりから右サイドバックに永里源気を投入し、攻撃性を高める。「前半は動き出しが少ないと感じたので、積極的に動いて自分から仕掛けていこうと思った」サテライトでもキレを見せていた永里は、水戸の楔のパスを後ろから走って奪い、あるいはPA内まで侵入してシュートまで持ち込むなど持ち味を発揮した。67分には左サイドを攻め上がった尾亦弘友希からのクロスに、ファビオがヘッドで合わせる。しかし、いずれもゴールには至らず、逆に73分、PA内でファウルを誘ったアンデルソンが自らPKを沈め、水戸が決定的な3点目を追加した。湘南も直後に加藤がコーナーキックから直接1点を返すも、それ以上ゴールを揺らすことは叶わなかった。
第1クールに「0−3」、今日は「1−3」と、湘南は2回とも水戸に屈した。目論見どおり展開し結果を手にした前田監督は、一週間後の山形戦に向け、再び戦略を練り直すことだろう。結果とともに内容を問う上田監督は、「気持ちの面でもう一度、立て直す必要がある」と語った。手応えと紙一重に訪れる苦しみは、このリーグがいかに拮抗しているかを如実に物語っている。どの対戦も予断を許さない。息をつく間もないなかで、いまはまずベースに立ち返り内容を見つめ直すことが、終盤を戦い抜く太い骨となる。
以上
2006.05.20 Reported by 隈元 大吾
J’s GOALニュース
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