4月4日、新装となった等々力陸上競技場のスコアボードには、「4-1」という数字が誇らしげに掲示されることとなった。明治安田生命J1リーグ1stステージ第4節、川崎フロンターレはアルビレックス新潟をFW大久保嘉人の2得点などで一蹴。前節の敗北で流れた悪い空気を一掃する、そんな勝利を収めた。
結果として新潟の大敗となったが、内容的に川崎Fが圧倒したというわけではない。それはシュート数5対7(5が川崎Fである)という数字が示すとおりである。川崎Fに対抗した新潟の戦い方をシンプルに言ってしまえば、「一人一殺」。マンツーマンの対応で、Jリーグ最強水準の攻撃陣を抑えにかかっていた。
そんな試合にあって、今季リーグ戦初先発となったサイドバックがいる。1994年生まれの高卒3年目、川口尚紀だ。1年目にしてレギュラーポジションを奪った期待のタレントは、しかし2年目の昨季から壁にぶつかっており、出場機会も激減中。今季リーグ戦の出場時間はわずか15分という状態からの先発抜擢だった。そんな彼に与えられたミッションはシンプルにして、意味深いもの。対面に位置する川崎Fの“10番”レナトを潰し、そのレナトのサイドから攻め切るというものである。
レナトvs川口で思い出されるのは、2013年のルーキーシーズンを終えた川口にスカパー!の企画でインタビューしたときのことだ。当時、最も強烈な印象を受けた対戦相手として川口が挙げていたのが、他ならぬレナトだった。新人時代のマッチアップ結果は惨憺たるもので、試合も苦杯。ほろ苦い記憶として脳裏に刻まれているだけに、今回はまさにリベンジの舞台だった。久々の先発機会に加えて、負の記憶が残る相手。燃えない道理はなかった。
「自分の良さをどんどん出してやろうと思っていた。(レナトには)1年目にチンチンにされたので、今回は何としてでも止めてやろうという気持ちで入った。あのときとはプレーの質や守備の対応は自分でも変わってきていると思っている」
最初の1対1から強烈な気迫を感じさせた川口は、試合を通じてまさに食らい付く姿勢を堅持する。天賦の身体能力の一方で、元FWということもあって守備面は粗削りだったのだが、この試合では淡白な対応を見せることなく、レナトに追いすがった。たとえ抜かれたとしても最後まで追いすがる、ドリブラーが嫌がるプレーを続けた。
結局、川口のマークを嫌ったレナトが右サイドに移って衝撃的なドリブルシュートを見せて新潟にとって致命的な2点目を奪っていったのは皮肉な話だが(それもまたレナトの賢さだが)、川口が個としてレナトに出し抜かれることはほとんどなかった。
「(レナトに)上手く対応できたのは、ちょっと成長しているのかな」
試合後、そんな言葉で自身の守備を振り返ったのも、手応えがあったからだろう。
もっとも、攻撃面ではクロスボールでキックミスを頻発。レナトの守備能力の低さを突くというチームの狙いを完遂するには至らなかった。あえて厳しく言ってしまえば、敗因の一つだ。攻守トータルの評価で言えば、まだまだ合格点には遠いだろう。とはいえ、20歳の選手が試合に出て、自分の中で物差しとなっていた強敵と相対し、そこで少々の成果を手にした意味は小さなものではない。
「攻撃のところはもっともっと絡まないといけないし、最後の精度も上げていかないと」
そう語る様子には、ある種の充実感もあった。失敗から課題を得て、その課題を練習で磨き、次の試合にぶつけていく。そのサイクルの中で選手は成長していくわけで、新たな基準点を得た川口の“次戦”に期待したいと思う。若きサムライは、失敗を重ねながら強くなるものだから。